サッカー男子で、3年ぶり14回目のインターハイ出場を決めた前橋育英(群馬)。昨年度の全国高校選手権で準優勝に輝いたメンバーがそろう中、敗戦を経て生まれた危機感を糧に、集中力を高めた練習を続けている。今夏こそ、頂点を取る。 (文・写真 茂野聡士)

3年ぶりの県大会優勝を果たした前橋育英。見据える目標はあくまでも全国制覇だ
 
 

課題が残った予選

県前橋と対戦した県予選決勝は、「通過点」と思えるほどの隙のない戦いぶりに見えた。キックオフ直後から相手を押し込んで優位に立つと、前半11分に右サイドを突破した近藤友喜(2年)からのラストパスを榎本樹(2年)が決めて先制する。後半22分にはロングボールを榎本が柔らかな胸トラップで落とすと、走り込んだ塩沢隼人(3年)が鋭い右足シュートを突き刺して2-0に。その後も相手の反撃を許さなかった。

しかしタイムアップの瞬間、選手たちは誰一人として喜びをあらわにしなかった。それは、彼らが目指すサッカーのレベルの高さの表れでもある。

試合終了後に山田耕介監督は語っている。「まだまだです。攻撃でワンツーパスを仕掛けていきたい場面で、最初のパスがズレていました」

チャンスこそ多くつくったとはいえ、パス回しでの連係、最後のシュートの局面で相手に阻まれる場面があった。実際、1ゴール1アシストをマークした榎本も「もっと点を取れました」と口にした。

強豪との差を痛感

勝っても決して満足しないのは、悔しさの残る敗戦を経験したから。決勝の登録メンバーには、主将の田部井涼(3年)をはじめ、昨年度の選手権準優勝を経験したメンバーが8人残った。彼らの経験値は頼もしい。それでも、インターハイ出場までの道のりは「決して順風満帆ではなかった」と田部井は話す。「僕たちは選手権の決勝で0-5の大敗を喫しましたから」

前橋育英は選手権決勝で、青森山田(青森)の前になすすべなく完敗した。3年生が引退し、新チームとして挑んだ2月の大会でも、清水エスパルスユースに1-6と惨敗。ほぼフルメンバーで臨んだが、強豪相手に全く歯が立たなかった。田部井は「選手権の負けから学んだつもりでいたんですけど、全然変わっていないと思い知らされました」と言う。

選手権で勝利した市船橋(千葉)にも、練習試合で0-1と敗れた。最少得点差での敗戦ながら「パススピードが違った」(田部井)と、力の差を感じた。

 

ミスを一つずつ改善

これらの敗戦を通じて芽生えたのは危機感だった。前橋育英は日頃から集中力の高い練習に臨んでいるが、さらに意識を高めた。今年から部のトップチームで練習する榎本は「今まで経験したことがないほど、ボールを持った際に受けるプレッシャーの速さ、厳しさを感じています。また、少しのトラップミスに対しても、周りから『しっかりしよう!』と声を掛けられます」と言う。

田部井も「怒られるのが嫌だからやるというわけではないですよ」と前置きしてからこう続ける。「練習でのミスをほったらかしにしていたら、試合で同じミスをしてしまいます。そこを一つずつ指摘し合って、僕たちの原点である『プレッシング、球際、切り替え、パスワーク』を、どのチームにも負けないくらいに磨きたいと思っています」

高い意識があったからこその、県大会制覇だった。

田部井は「全国制覇と(高校年代最高峰のリーグ戦である)高円宮杯プレミアリーグ昇格を目指しています」と今後の目標を語る。達成する最初のチャンスは、インターハイだ。原点をさらに磨き上げることが、目標達成への最短ルートとなる。

TEAM DATA

前橋育英サッカー部男子1962年創部。部員172人(3年生60人、2年生56人、1年生56人)。2009年にインターハイ制覇。黄色と黒のユニホーム姿から「上州のタイガー軍団」との異名を持つ。OBには細貝萌(柏レイソル)ら多くのプロがいる。

県予選決勝で1得点1アシストの榎本樹。集中力を問われる練習でフォワードとしての力を養った