高校生記者がJICA(ジャイカ)の国際協力について取材するシリーズの2回目は、理数教育分野の青年海外協力隊として、今春までタンザニアに派遣された中学校の先生、海老名利亮さんに聞いた。
野球教室やCDデビューも
Q なぜ青年海外協力隊員になったのですか?
A 海外ボランティアへの興味を持ち始めたのは、大学4年生のころでした。卒業旅行で訪れたタイで厳しい現状を知り、「途上国の支援が先進国に生まれた自分の使命じゃないか」と思ったのです。
中学校の教師になって8年目の2012年に、青年海外協力隊の現職教員特別参加制度を利用し、希望していたアフリカのタンザニアに2年間派遣されることになりました。
Q 現地でどんな活動をしたのですか?
A 日本の中学生にあたる生徒たちに理数系科目を教えることでした。生徒は1クラス50人、みんなとにかく元気で素直でした。日本の小学生のように積極的に自分を表現します。文化や環境は異なっても、「友達に会いたいから学校に来る」とか「勉強は好きじゃないけど体育は大好き」とか、考えていることは日本もタンザニアも一緒なんですよ。
学校の授業以外にも、いろんな活動に携わりました。学生たちに野球のルールを教えて「タンザニア甲子園」を開いたり、交通安全の啓蒙のために曲を作ってCDデビューしたり…。「アンゼンウンテン」というタイトルのこの曲のプロモーションビデオは、今でも現地のテレビで毎日放映されているそうです。
Q タンザニアの学校について教えてください。
A 授業は8時から始まり、1コマ40分の授業が4コマ続きます。4時間目が終わると20分の朝食タイム。7時間目のあとに昼食をはさんで、だいたい9時間目で終業は終わります。授業間に休み時間はありませんが、先生が来なかったり遅刻したりして自習の時間になることも多いです。僕が担当した数学は2コマ連続の80分間授業でした。
Q タンザニアの人の日本人へのイメージは?
タンザニアに住んでいる日本人は400人と言われています。タンザニア人の日本人への印象はおおむね良いですよ。何よりも信頼感を高めているのが「ジャパニーズ・クオリティ」です。パソコンや車などの品質の高さに代表されるように、丁寧な仕事ぶりが好まれています。特に中古車は現地の新車よりも耐久性が高いと評判で、道を走る車のほとんどが日本車です。
ちょっと困ったのが、携帯電話が壊れると僕のところに持ってくる人が多かったこと。「技術の国から来たんだから、直せるだろ」とよく言われました(笑)。
Q タンザニアで大変だったことを教えてください。
A 汚い話ですが、トイレが大変です。トイレットペーパーが置かれておらず、かわりにバケツに水が張ってあるところが多いんです。要は水をすくって手で洗うんですね。だから、どこに行くにもトイレットペーパーを持っていました。
また、タンザニアの人は基本的にのんびりしています。細かい予定を立てても、相手が遅れてイライラするので、一日に行うことを1、2個くらいに留めるようになりました。その文化にすっかり慣れてしまったので、日本で職場に復帰したときは大変でしたね(笑)。
Q 小学校の教員を目指しています。青年海外協力隊員になるには、専門の教科が必要ですか?
A 初等教育という職種も協力隊にはあります。数学や情操教育の音楽美術を教えている隊員が多いです。教員免許を持っていて、ちゃんと勉強していけば大丈夫だと思いますよ。日本の小学校に飛び込むのと海外の学校に飛び込むのは一緒。海外だから大変ということはないです。
Q 交通安全の曲を作られたそうですが、交通事故は日本よりも多いのですか?
A タンザニアはお金を払えば免許が手に入るので、交通ルールのマナーが浸透していないんです。日本の交通事故の年間死亡者は5000人で、タンザニアも5000人。日本の人口が1億5000万人に対してタンザニアは4500万人ですから、日本より圧倒的に多いと言えます。国土が広くて制度も整っていないから、把握されてない死亡者はもっとたくさんいると思います。さらにタイヤが外れたり、パンクしたりする物損事故や、横転事故もすごく多いです。道路や車の整備も今後の課題だと思います。
Q 高校生へのメッセージをお願いします。
A 自分が何をしたらいいか分からないっていう人って、たくさんいると思います。そういう人は、とにかく色んなことをやってみるといいですよ。「楽しそうだからやってみよう」とか「いつかやってみたいな」という思いが、何かに刺激を受けて活性化される瞬間がいつか来るはずです。そういうものに出会うと、まるで恋をしたみたいにドキドキしますよ。とにかく興味があることに一生懸命になって、魅力的な人にたくさん出会って、自分の世界を広げてみてください。
◆取材を終えて◆
海老名さんはタンザニアの公用語、スワヒリ語を覚えたり、生徒がイメージしやすいように、数学の問題を現地で馴染みの深い食べ物に置き換えて考えたり、現地の方々と距離を縮め、寄り添って活動されてきた様子がお話から伝わってきた。私も将来、青年海外協力隊を志している。インタビューをして、将来への意志がより強固なものになった。
(高校生記者・小松原英莉)
私はアフリカを未開の地のように思っていたが、海老名さんが派遣された地域では、家に電気が通り、小中学生の多くが学校に通っているという。印象が変わった。海老名さんは私たち高校生に、興味のあることに打ち込み、自分の世界を広げて魅力的な人に会ってほしいと話してくださった。自分の好きなことをもっと伸ばそうと思った。
(高校生記者・関根綾香)