4月29日の織田記念国際陸上(広島)男子100㍍で、桐生祥秀(京都・洛南3年)=滋賀・彦根南中出身=が日本歴代2位の10秒01をマークした。大記録の裏側には、中学から続けてきた地道な練習と、精神面での大きな成長があった。 (文・写真 白井邦彦)

予選を10秒01で駆け抜けた直後、夢の9秒台が出るかと沸き立つ取材陣に対し、「決勝は、タイムよりもまず優勝したい」と語った。大記録のすぐ後でも、一人冷静に決勝を見据えていた。「1本だけ速くても全国制覇できない」。昨年の全国高校総体(インターハイ)では決勝まで進んだものの4位に終わった。悔しい思いが、彼の中には刻まれているのだ。 迎えた決勝では、ロンドン五輪代表の山懸亮太(慶応大)らを抑えて優勝。追い風参考ながら10秒03の好タイムで有言実行を果たした。

桐生が短距離を始めたのは中学1年から。箱根駅伝を経験した億田明彦先生(45、現滋賀・米原中)の下、学校近くの上り坂で負荷をかけて走ることで、スタートダッシュの力強さを身に付けた。下り坂ではスピードを殺さずにリラックスして走る感覚を体に染み込ませた。その結果、中学1年時に12秒台だったタイムは、中学2年の春には11秒25に。その後も上り調子だったが、中学3年時は故障に悩まされた。結果が残せず、レースに勝ちたい思いを募らせた。

高校入学後は、中学で学んだ走り方を意識しながら黙々と練習を続けた。片道1時間以上かけて通学し、みんなと同じようにグラウンド整備をしながらだ。インターハイ総合優勝を目標に掲げる部において、いくら才能があっても特別扱いはない。仲間と同じように基礎練習を繰り返してきた。

きりゅう・よしひで
1995年12月15日、滋賀県生まれ。小学生時代はサッカー選手。陸上は中学から。昨年10月の国体・陸上少年男子100㍍で10秒21の高校新、ジュニア日本新記録を達成。翌11月のエコパトラックゲームズでユース世界ランク1位の10秒19を記録。175㌢、68㌔。