新しい授業「立志プロジェクト」では学生同士でグループをつくり、対話促進ツールである丸い段ボール「えんたくん」にメモしながら話し合う(写真提供・東京工業大学)

東京工業大学が今年度から大規模な教育改革に乗り出した。柱の一つがリベラルアーツ教育だ。文学や社会学、科学史といった教養科目を学ぶことで、理工系の専門分野の知識を社会につなげたり、自分の人生を自由に設計したりするためのカリキュラムが組まれている。目玉の授業が「東工大立志プロジェクト」。新入生全員が少人数のグループに分かれて本音で語り合う中で「学ぶ志」を育むユニークな内容だ。

池上彰さんらが講義し
学生同士で感想を共有

立志プロジェクトは新入生約1100人が、入学直後の4〜5月の学期(同大は4学期制)に受ける。毎週、講堂で一斉に受ける講義と、約30人ずつに分かれてのグループワークという2つの授業があるのが特徴だ。

今年度の講義は、ジャーナリストで同大特命教授の池上彰さんや、劇作家の平田オリザさんのほか哲学者や社会学者、住職らが担当し、7回開かれた。

学生は講義で印象に残ったことや感じたことをノートにまとめ、数日後のグループワークでは、クラスがさらに4人ずつのグループに分かれ、講義の感想などを語り合う。課題図書の書評を書いて互いに紹介し合いもする。授業の最後には各自が、自分たちが学んでいくうえでの「志」を発表し合う。

こうした授業では、先生の役割は知識を伝達するのではなく、学生同士の学び合いを支援することだ。

「教養の面白さ知った」
読書会立ち上げる学生も

1年生は新しい授業をどう受け止めているのか。赤塚啓紀さんは「高校までは社会の授業はつまらないと思っていたが、教養はこんなに面白いのかと思った」と振り返る。今後は学生同士の自主企画として読書会を立ち上げるという。浅沼遥香さんは「ほかの人の考えを聞いたり、書いたものを読んだりすることで自分の考えも変わってくる。先生が親身にサポートしてくれるのがうれしい」と語る。

学生は「立志プロジェクト」で得たことも基にして、哲学など「人文学」、政治学など「社会科学」、科学技術論などの「文理融合科目」などの教養科目を自分で選んで履修する。3年時には新入生の時と同じグループで受ける「教養卒論」の授業があり、教養科目で学んだことをリポートにまとめる。大学院でも教養科目が用意されている(チャート参照)。

教養教育の授業は、同大のリベラルアーツ研究教育院が担当する。6月に開かれた同院のシンポジウムで三島良直学長は教育改革の狙いについて「欧米の大学のように、学生と先生が壁をつくらずに議論する雰囲気をつくりたい」と語った。「(リベラルアーツ教育により)学生が目を輝かせて勉強するようになる。専門教育の授業でも自分からどんどん手を挙げるようになるだろう」と期待している。