弁護士や検事、裁判官といった法律家を目指す学生は、法学部でも少数派だ。今、法学部の学生は何をどんな目的で学んだらいいのか。裁判員制度の創設メンバーでもある大出良知教授に伺った。

高校生にとってもっとも身近なルールは「校則」だ。「入学前から決まっていたから」「守らないと怒られるから」…そんな理由でなんとなく守っている生徒も、ここで少し考えてみよう。校則って何のためにあるんだろう?

民主主義の国では、さまざまな価値観を持つ者が互いの立場・権利を尊重しながら共存し、社会を動かすためにルールを設ける。

「社会をよりよくするためのルールを自分たちで考え、代表者を国会に送って法律化するのが民主主義のしくみ。国民を管理する側が秩序を維持するために作り、守らせるものでは決してありません。

つまり本来、法律はボトムアップ(下からの意見を上部へくみ上げること)で作られるもの。ルールとしてのレベルは違いますが、こうした発想そのものは校則も国の法律もまったく変わりません」

東京経済大学現代法学部長で弁護士の大出良知教授はそう説明する。 ただし現実にはこうした原則・理想が必ずしも実現していないのも事実だ。「日本ではこれまで『司法はプロに任せておけばいい』という考えが根強かった。このためルールがあってもあいまいだったり、人間関係や馴れ合い、ときには力のあるなしによってものごとが決まるということも起こっていたのです」と大出教授は指摘する。

「しかしそれではもう世界に通用しません。近年、企業のコンプライアンスが常識になったように、これからは社会の隅々にまで法を行きわたらせることが求められています」 こうした主旨で1999 年には司法制度改革がスタート。大出教授も裁判員制度の創設に関わった。

「改革の理念を実現するには、国民一人ひとりが法の担い手としての自覚を持つことが大切。裁判員制度もそのためにできたといっていいでしょう」

21 世紀における法のあり方を考え、“法的センス”を持った人材を輩出する…大出教授が学部長を務める「現代法学部」の名称には、このような意味がこめられているのだ。

ちなみに“法的センス”とは具体的にどのようなものだろう?

「目の前に問題があるとき、決して簡単ではなくとも、変えようと思えば変えられるシステムのなかに私たちは生きています。そうした感覚を身につけ、いざというときにはアクションを起こせる。それが法的センスだと考えています」

大出教授の専門は刑事訴訟法。犯罪が起こってから刑罰を科すまでの手続きを定めた法律だ。ゼミでは「えん罪」をテーマに、遠方の事件現場を訪ねることもある。

「被告人が、犯人が、故意があったのかといった“真実”を第三者が確認することは容易でありません。ですから、えん罪を引き起こさないために、私たちは『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事訴訟法のルールを何百年もかけて作ってきたのではないでしょうか」と大出教授。

「法は社会をよりよくするためにあります。まずは社会を知るために、目を見開いてほしい」と高校生へのメッセージを語った。