運動が苦手な人にとって、体育の授業は苦痛でたまらないという声を聞く。リョウさん(仮名・高校1年)は、体育の授業でバレーボールの試合中にミスをして、同級生に怒鳴られ心に傷を負った。その後、学校外で運動を始めたことで、スポーツの魅力に気付くまでを話してもらった。(野村麻里子)
球技の授業、ミスしたら同級生から「戦犯」呼ばわり
「戦犯すんな! ふざけんな!」
体育館に怒鳴り声が響きわたった。5月、高校に進学してまもない体育の授業。その日の種目はバレーボールで、リョウさん(仮名・高校1年)は敵チームのサーブを受けきれなかった。同じチームのクラスメートは、ものすごい剣幕で怒鳴った。

続いて、コートラインからアウトになりそうなボールが、リョウさんに向かってきた。とっさに受けようとしてしまい、むなしくコート外へはじかれていった。
「さわんな!」
さらに同級生は怒り狂った。凍りつく空気に、敵チームの同級生が見かねて「まあまあ……」となだめだした。
リョウさんの心境は冷静だった。「同級生が言っていることは、別に間違いではないから……僕が触らなければ点は入っていたんだし。恨むとかはないけれど、シンプルに傷つきましたね」
先生は様子を見ていたけれど、何も言わなかった。後からリョウさんへのフォローもなかった。「子どもたちで解決しろっていうスタンスなのかなって思いました」
体育の授業が苦痛、説明されても「体が動かない」
リョウさんは、小学校高学年になったあたりから体育の授業が苦手になった。「特に球技がだめなんです。投げたり打ったり蹴ったり……全部へなちょこショットしか出せない。運動できないなあ、授業やだなあと思うようになりました」
先生に教えてもらっても「日本語としては理解できる」けれど、体が動かない。「例えば数学だったら公式を覚えれば点数は取れる。でも体育はそうはいかない。一週間本気で筋トレしたからといって、筋肉がムキムキになって、急に運動が得意になるというわけではないし……」
「やっぱり悔しくて」パルクールに挑戦
運動が苦手、体育の授業が嫌い。その状況をリョウさんは変えたかった。「やっぱり、(体育館での経験が)悔しかったんですよね」
5月下旬から「パルクール」を習い始めた。走る・跳ぶ・のぼるなどの移動動作で心身を鍛えることを目的とする。ビルからビルに飛び移るなど、街中を身一つで駆け巡る動画、と聞いてピンとくる人も多いだろう。

「体を動かすって楽しいな」
現在は週に1~2回スクールに通っている。「動画みたいに街中で行うわけではないですよ。施設の中でマットや跳び箱を使い、安全に行います。難しいことはしません」
体育の授業はやらされている感じがして苦痛だったが、パルクールは楽しい。「体力や運動神経がそこまでなくても、意外と簡単に取り組めるんです。体を動かすのって楽しいなと感じています」
体育が苦手なあなたへ「スポーツの魅力知ってほしい」
体育の授業への向き合い方も少し変化が生まれた。「相変わらず運動は苦手」だというが、パルクールのおかげで自己肯定感が生まれたという。「体育で学ぶ種目ができなかったとしてもたまたまその種目ができなかっただけ、と思えるようになりました」

今、体育が苦手で苦しんでいる高校生へ。「僕はパルクールで体を動かす楽しさに気づけた。スポーツの魅力は挑戦の先にありました。小さなところからちょっとずつ勇気を出して挑戦してみてもよいかもしれません」