浅田紘輔(宮崎・佐土原3年)は、全国選抜高校テニス大会男子シングルスで優勝。主将としてインターハイへチームを導いた頼れるエースだ。ビジネス書や成功哲学の書籍を熟読し、経済理論を用いた「独自の練習法」で強さに磨きをかけている。(文・小野哲史、写真・学校提供)
プレッシャー跳ね除け
インターハイ宮崎県予選で浅田は団体戦、ダブルス、シングルスと3冠を達成し、主将として部を6大会連続22回目のインターハイ行きに導いた。
昨年のインターハイではダブルスで準優勝。今年3月の全国選抜高校テニス大会では宮崎県勢初となるシングルス優勝を果たし、団体では両大会で3位入賞に貢献した。それゆえに「勝たなければいけないというプレッシャーを感じることがすごく多かった」と明かすが、「大事なのは他人からの評価ではなく、自分が満足できる試合をすることや後悔しないこと」と、苦しい時は常に矢印を自身の内面に向けていた。
強みは自分信じる精神力
浅田は自身の強みを「精神力」と言い切る。「試合では長いラリーになったり、展開的にも苦しい場面が何度も来たりします。でも、そういう時に自分を信じられるし、自分のプレーを良くするための修正力や調整力はあるかなと。今まで積んできた努力や過程もありますが、それ以上に、『相手より自分の方が長い時間をかけてこの試合に向けて対策してきた』という心の中の根拠が、自分を強くさせていると思います」
プレースタイルは、「ストロークを主体に相手がミスするまで返し続けるプレー」。そこに昨年までダブルスの経験を多く積んだことで、ボレーやスマッシュといったネットプレーにも磨きがかかった。今は「肩の強さをだいぶ生かせるようになったけれど、精度や威力が未熟」というサービスの強化に余念がない。
ビジネス書の知識を応用
授業がある平日の練習時間は約3時間、授業がない休日は6時間ほど。テニス部としては基礎練習のメニューが多いが、浅田の思考法が独特でユニークだ。
「自宅にビジネス書や成功哲学の本が多く、小さい頃から読んでいたらそういう考え方が自然に身につきました。ビジネスの戦略や思考法は、ビジネスだけじゃなく、テニスやスポーツ、勉強と何でも応用が可能です」
例えば、「PDCAサイクルを回す」のはその一つだ。PDCAとは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(分析)、Action(対策・改善)の頭文字を取ったもの。「目の前の問題や課題を解決する時に、まず計画を立て、それを実行します。その結果を確認して、何が悪かったか、改善の余地があるかを分析し、また改良したことを行う。練習でも必ずこの思考で取り組むことを徹底しています」
2ポイントに集中する
浅田はまた、「売り上げの8割は2割の社員に依存する」というビジネス用語「パレートの法則」も競技に落とし込んでいる。
「テニスで勝敗を分けるのは、8割のポイントではなく、2割のポイント。4ポイント先取で1ゲーム獲得となるテニスでは、1ゲームの総ポイントが10弱になるので、その中の2ポイントにいかに集中力を割けるか、自分が持っていきたい戦略に2ポイントをフィットさせられるか。常にそのことを考えながらプレーしています」
同じように与えられた練習メニューでも、ただ何となく取り組むのと、試合を想定したり、目的や意図を考えたりして行うのでは、その成果が大きく変わってくる。
問題に目を逸らさない
小学生の頃に全国大会で準優勝した実績があったものの、中学時代はコロナ禍もあって大会が減り、「自分の立ち位置が不透明になっていた」。高校に入ってからも1年目は思うような実績を残せなかったが、自身の信念が揺らぐことはなかった。
「未来の自分を良くできるのは、今をもがく自分でしかないと思っています。だから目の前の問題には目を逸らさず、考え続けることで、いろいろとつながって見えるものがあるはずです。気づかないうちに良くなっていって、昨年のインターハイから結果を出せるようになりました」
「優勝以外見えない」
主将として、部員16人の先頭に立ってチームを力強く引っ張っている。「自分に見えていない部分がないように、できる限りチーム全体をしっかり見ることは心がけています。あとは、どんなことに対しても率先して、口だけにならないようにする。まず自分が体現することによって、1つ1つの発言に説得力を加えられたらと思っています」
間もなく迎える大分でのインターハイは、「優勝以外、見えていません」と頂点だけを見据えている。
「今回は団体戦優勝が一番大きな目標。高校最後の団体戦なので、3年生を中心に全員で戦いたいです。そのために大事なのはメンタル。暑い中で全国の強豪校と当たるので、苦しい試合の連続になりますが、どれだけ強い気持ちで優勝のために辛抱できるかだと思います。個人戦ももちろん優勝を目指します。マークされる難しい立場ですが、過去の栄光は捨てて、チャレンジャーとして1試合1試合大事に戦っていくしかありません」
日々の鍛錬で積み上げた力を、一気に解き放つ時がやってきた。
- あさだ・こうすけ 2006年7月31日、宮崎県生まれ。木花中卒。テニスをしていた父に勧められ、5歳から地元のスクールに通い始めた。憧れの選手は、四大大会で活躍するラファエル・ナダル(スペイン)。2023年インターハイ・ダブルス準優勝、団体戦3位。24年全国高校選抜大会シングルス優勝、団体戦3位。180センチ、75キロ。