満員電車の中で、こちらをじっと見つめる少女。この油絵は、第47回全国高校総合文化祭(2023かごしま総文)の美術・工芸部門に出品されました。作者の中西結瑞さん(神奈川・横浜平沼高校3年)に、どのように制作したのか聞きました。
電車で感じた「チグハグ」を作品に
―作品のテーマは何ですか?
混雑する電車の中でふと周囲を見渡すと、他の乗客たちは音楽を聴いたり携帯端末の画面を見つめていたり、皆それぞれ自分の世界に入り込んでいました。荷物や肩が触れるほどの距離であるにもかかわらず、まるでお互いを意識していないのです。乗客たちの物理的な距離と意識的な隔たりとのチグハグに面白みを感じ、作品に表現しました。
―タイトル「めいめい」に込めた思いを教えてください。
周囲の人たちに接触している実感があったけれど、周囲の人たちは皆こちらへの意識を閉ざしているということに気がついたときの、わずかな孤独感も込められています。タイトルの「めいめい」には「おのおの」「それぞれ」「一人一人」という意味の他に「暗いさま」「目に見えないこと」という意味があります。
お互い「混ざり合うことはない」
―こだわったり、工夫したりしたポイントはどこですか?
乗客たちがおのおの自分の世界に入り込んでいる様子がこの作品での見せ場です。これをシンプルかつ表象的に表現したいと考えた結果、無彩色で描き起こした上から薄く色を重ね、模様を付けるという表現に至りました。
模様は水玉や市松など、なじみのあるものを選びました。おのおのが自分の世界に入り込んでいるため、彼らの色や模様も異なります。混ざり合うことはありません。
初めての油絵、3カ月半かけて完成
―難しかった点や苦労した点はどこですか?
この作品の主役は少女を含む乗客たちですが、それらをより引き立たせるために電車内の描写にも力を入れなければならず苦労しました。空間のパースや青くて暗い色味の表現にたくさん悩んだのを覚えています。画面中央の少女は特定の誰かを描いたものではないためモデルがいません。複数の画像を参考に描いたので、見たままに描くことができず苦戦しました。
―制作中、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
油絵はこの作品が初めてでした。中学校までは油絵具を使った経験がなく、私の中で油絵に挑戦することは高校で達成したい目標の一つだったため、とても張り切っていました。
F50号サイズ(1167×910mm)のこの作品は今まで描いたどの作品よりも大きく、さまざまな点で初めてのことばかりの制作になりました。約3カ月半にわたる制作期間中、常に新鮮な気持ちでした。
ワクワクとトキメキを大切に
―よい作品を作るためのコツは何でしょうか。
よい作品とはどういうものかも、それを作るためのコツも、私自身答えを探している最中です。ですので、正直分かりません。でも、普段私が作品を制作する際には作品への愛と期待を大切にしています。制作中にワクワクできるかどうか、自分の作品にトキメキを持てるかどうかは完成した作品の魅力に大きく影響していると思います。