人々の健康な暮らしを取り巻く環境が日々変わる中、医療関係の仕事に就きたいと考えている高校生も多いだろう。

地域も世界も。より広い視野が求められる医師

男女ともに世界トップクラスの平均寿命を誇る日本だが、最近では、「健康寿命」という言葉も耳にするようになってきた。単に平均寿命を伸ばすだけでなく、より長い期間健康に暮らすことは本人によいばかりでなく、医療費の削減などにもつながるという考えだ。健康寿命をのばすためには、日常生活での病気予防から罹患時の高品質な医療、回復期のリハビリテーション、介護までトータルな視点を持つことが大切だ。

最近では、住民の健康維持・増進を目的として、医療機関が主導して、地域の行政機関などとともに総合的な医療活動を行う「地域医療」に注目が集まっている。これから医師を目指す人は、最先端の技術や知識の習得だけでなく、医療に関する地域のリーダーとしての資質も求められることが増えるだろう。
 今年は、エボラ出血熱やデング熱など、国境を越えた感染症対策について考えさせられるニュースも多かった。経済のグローバル化が進む中、医療の分野にも国際的な視野がますます必要となるだろう。

健康寿命とは、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間のこと。平成22年の厚生労働省の資料によると、平均寿命から健康寿命を引いた差は、男性は約9年、女性は12年もある。

看護師は、患者に一番身近な医療者

また、さまざまな病気に関する研究が進むとともに治療の選択肢も増えている。例えば、今や国民病とも言われるがん。投薬や放射線、切除など治療法が多いため、患者の意思や状態によって最良の治療法も変わる。このため、医師を中心とし、患者に関わる各専門家がそれぞれの知見から意見を出し合い、治療方針を決定するチーム医療へと変わりつつある。こうしたチーム医療の中でも、看護師は、「患者に最も身近な医療従事者」として、患者がその人らしく生きていけるよう常に明るく向き合い、最適な看護行為を提供することが求められる。そのためにも、社会や人間への深い理解と科学的根拠に基づいた高いスキルが必要だ。また、患者の移動や体位変換といった重労働も多いため、今はまだ看護師全体の6%程度にすぎない男性看護師も、これからますます必要とされるだろう。(図1)

(図1)就業中の看護師数の推移 厚生労働省による

医療技術を支える工学分野の視点

医療技術に関するさまざまな研究は、工学分野からもアプローチできる。例えばロボット工学では、医師の手ブレを補正する手術支援ロボットや人の体内に入り込めるナノロボットなどの研究が進められ、一部実用化されている。また、人工心肺装置など人の命に関わる医療機器を扱う臨床工学技士など、医療の現場でもエンジニアの必要性が高まっている。さらに、遺伝子工学のアプローチから、ウィルス感染症やがんの治療法についての研究も進められている。医療関係の仕事に興味のある高校生は、より広い視野で進路を検討してみてはどうだろう。

多彩な医療関係の仕事〈一部〉
■看護師…病院や診療所で医師の診察を助け、患者を看護する。都市部はもちろん、特に地方の病院での看護師不足は深刻で、ニーズは高い。
■診療放射線技師…病院や診療所で医師の指示のもと、放射線を使った検査(レントゲン撮影など)や治療(患部への放射線照射など)をする。
■臨床検査技師…病院や検査機関で、さまざまな検査を行う。検査内容は、心電図や脳波を調べる生理機能検査と、血液や尿を調べる検体検査に分かれる。
■臨床工学技士…病院や診療所で医師の指示のもと、人工心肺装置などの生命維持装置を扱う。操作はもちろん保守点検なども大切な仕事だ。
■理学療法士…リハビリを助ける専門家で、体操やマッサージ、温熱、電気などの物理的な刺激によって、身体機能の維持・回復を助ける。
■作業療法士…身体や精神に障害がある人に対し、手芸、工作、スポーツなどを行うことで、通常の社会生活への復帰を支援する。