相手に気持ちをうまく伝えられない、そもそも自分の気持ちが分からない。そんな悩みを解決する糸口をつかめるノートを、発達障害を抱える高校生が商品開発し販売、好評を博した。中学時代、学校に行けず苦悩した経験を生かし、挑戦した。(文・黒澤真紀、写真・本人提供)

気持ちを整理するノートを開発

津波(つは)夢乃さん(N高校3年)が商品開発した「きもちのナビ帳」は、発達障害のある人に多い「自分の気持ちをうまく説明できない」という悩みの解決を手助けしてくれるノートだ。

津波さんが商品開発した「きもちのナビ帳」。気持ちを整理する工夫をたくさん盛り込んだ

まず「学校に行きたくない」など、自分の中にある「一番大きい気持ち」を書き込む。そう思った理由、誰にどうしてほしいかなど、9つの質問に答え、言語化していく。「怒り」「悲しい」など気持ちの大きさを0~10の数字で表すページもあり、自身の気持ちを整理できる構成だ。

「相手に気持ちを伝えられない以前にある、『自分の気持ちが整理できない』悩みを軽くすることができるんです」。ネットショップで販売し、100冊を売り切った。

不登校の理由、自分でもわからず

津波さんは発達障害がある。中学生になりコミュニケーションの取り方に悩み、中学1年の3学期からは学校に行けなくなった。「母から学校に行かない理由を聞かれても答えられなかった。自分でもなぜなのか、理由が分からなかったんです」

「きもちのナビ帳」を開発した津波夢乃さん

自分の感情を言葉にできないのは苦しい。部屋にこもり、自問自答を繰り返した。ノートにぐちゃぐちゃの線を書きなぐると、モヤモヤした気持ちは少し解消した。だが、自分の気持ちが分からないつらさは消えなかった。

「頭の中」紙に書き見つけた答え

頭の中で起きていることを紙に書き、分解しながら自分と向き合い続ける中で、中学2年のときにようやく「人が怖い」と感じていることに気づいた。「時間がかかりましたが、自分の気持ちが分かったんです。母にも伝えられました」

学校へ行けない理由は分かったが、解決する方法は見つからず、それから一度も行かないまま卒業した。

通信制で学べ、かつ「いろいろなことに挑戦できそう」という理由から、卒業後はN高校へ進学した。そして高1の夏、地域や身の回りの課題解決や、自身の興味関心などをテーマに行う課外授業に参加し、「気持ちを伝えるツールを作ろう」と思い立った。地元の幼なじみやN高校で知り合った仲間と共に、高校2年の冬にチーム「ゆいりてらす」を結成。「きもちのナビ帳」の開発に取り組んだ。

友人や社会福祉士のアドバイスを反映

自分の感情を整理して理解するために、自身に問いかける質問項目の設定に苦労した。「どう気持ちを伝えればよいのかが分からなかったんです」。親しい社会福祉士や、一緒にノートを作った友達にアドバイスを求めた。

気持ちを説明する言葉が思いつかないときは絵で表現してもよい

「イラストを描くのが好きな友人が、『色や線で表せる項目があった方がいいんじゃない?』と提案してくれたんです。私は、気持ちを言葉で表すことを一番大事にしていたのですが、友人の話で新しい視点を持つことができました。発達障害を持っていない友達からの意見で、とても参考になりました」

さらに試行錯誤を繰り返し、デザインを決定・制作。印刷所も自分で探し、2023年の初めに「きもちのナビ帳」が完成した。フォントは優しい雰囲気に、用紙は薄い黄色、線はグレーを採用。視覚過敏や文字を読むのが苦手な人も使いやすいよう工夫した。

23年5月に商品化に向けてクラウドファンディングに挑戦したところ、目標金額30万円に対し80万円以上の支援が集まり、返礼品として400冊を送った。その後ネットショップで販売し、100冊を売り切った。

次の目標はノートのアプリ化

「きもちのナビ帳」は発達障害を抱える人などからの問い合わせが相次いだ。利用者からは「『きもちのナビ帳』に書き込むことで自分の感情が整理でき、相手とコミュニケーションが取りやすくなる」という声が届き、支援学級でも使用されるなど、大きく広がっている。

次の目標は、たくさんの人に使ってもらうためにナビ帳をアプリ化すること。「私はみなさんと同じようにがんばっているだけ。特別なことではありません。これからも、いろいろなことに挑戦していきたい」