日本一の高校生アナウンサーを決める「NHK杯全国高校放送コンテスト(通称Nコン)」。7月に行われたアナウンス部門の決勝では、古賀美希さん(長崎・諫早高校2年)が優勝を飾った。「正確な発音を頭にたたきこむ」という驚きの練習方法を聞いた。(文・黒澤真紀、写真・学校提供)

1万人の前でも物怖じせず

「Nコン」の決勝当日、長崎県代表としてNHKホールに立った。会場とオンラインを合わせた観客は約1万人、やり直しがきかない一発勝負。ガクガクと震えそうなシチュエーションだが、古賀さんはもともと緊張しないタイプ。「こんなに大勢の人の前でアナウンスできるのがうれしくて仕方なかったです!」

マストアイテムはバインダーとタオル。タオルは仲のよい叔母さんからのプレゼントで、今年のNコンから、本番中も手元に置いている

そんな古賀さんは、諫早高校附属中学1年のとき、小学校の先輩に誘われて放送部に入部。半年後、適性を踏ふまえてアナウンス部門に入ることになった。「アナウンス技術は基礎が9割。発声、アクセント、滑舌などの練習を徹底しました」

練習には、代々受け継がれてきたテキストを使用する。「ページがボロボロになるまで読み込みました。中身もすべて暗記しています」

絶対音感を生かし「寸分の狂いなく」発音

武器は、耳が良いこと。幼少期からピアノを習い、絶対音感を持つ古賀さんは、単語やフレーズの「正しい発音」を捉えるのが得意だ。「長崎出身なので、どうしても独特のイントネーションが出てしまう。それを先生に指摘されたら、正確な発音ができるようになるまで繰り返し練習し、寸分の狂いなく言えるように頭にたたき込みます。すると、同じ言葉を5回言っても、全く同じように発音できるようになるんです」というから驚きだ。

「耳で音を分析して、正しい発音を捉えられる。正確に発音できるという意味では、ある意味機械のようかもしれません(笑)」

思いが伝わるアナウンスを研究

しかし機械のようにただ原稿を読むだけでは、聞いている人に思いが伝わらない。伝えたい相手がいることを意識して、「しゃべるようにアナウンスしなさい」と顧問の小野下洋美先生から何度も指導を受けた。正しいアクセントとはいえ、ただ「読む」だけだとAIのように単調になってしまうのだ。

「アナウンスは感情を込めて『しゃべる』から、情報が伝わる。大切な言葉が聞いている人の頭に残るように、しゃべるスピードや声のトーン、高さを意識しています」

「伝えたい相手」を意識しながら原稿を読む

高校1年でNコンの決勝に出場した時も、他の人のアナウンスがなぜうまいのか、分析しながら聞いた。「やはり、アナウンスが上手な人の言葉は頭に残った。相手に語りかける感覚をこの時につかんだ気がします」

日頃の練習を実践で生かすための研究も欠かさず、大会であっても一人一人の顔を見ながら、感情のキャッチボールをするように語りかけた。

原稿執筆に悪戦苦闘「ついアツくなっちゃって」

Nコンのアナウンス部門では、実際に取材して作ったアナウンス原稿も読む。「取材した人の思いをみんなに伝えたいので、原稿作成には人一倍時間をかけます。でも、伝えたい思いが高まりすぎて、ついついアツくなりすぎてしまうんです」

第三者目線で原稿を書くのが難しく、毎回悪戦苦闘。「取材内容の取捨選択や、バシッとはまる言葉を選ぶのに時間がかかってしまう。困った時は、先生や仲間にアドバイスをもらいます」。取材相手の思いが表現できているか、聞いている人の心に残るフレーズかを重視し、推敲(すいこう)を重ねる。

視聴覚室でコンテスト用のマイクを使って練習する古賀さん

予選大会ごとに内容をブラッシュアップし、最終的にテーマを「環境問題は命の問題」として納得のいく原稿ができた。古賀さんが代表を務める、高校生の環境保護団体「Fridays For Future Nagasaki(通称、FFF長崎)」の活動や前代表へのインタビューを中心に、温暖化を軽視する人々に警鐘を鳴らす内容だ。

将来については、やりたいことを模索している最中だという。「アナウンサーや声優などの声を使う分野にも興味があるし、教育学を学んで教師になりたい思いもある。自分の経験を生かした仕事がしたい」と話してくれた。

  • ■古賀さんのある1日のスケジュール

  • 5:30 起床、勉強
  • 7:00 朝食。準備をして登校
  • 8:30~ 授業
  • 16:30 部活動
  • 19:00 帰宅。夕食、入浴、休憩。食事中はテレビでNHKニュース7を視聴。
  • 21:00 ピアノの練習。最近はジャズがお気に入り。
  • 21:30 FFFの活動、放送原稿作成、勉強
  • 23:00 就寝