ノーベル医学生理学賞に決まった大隅良典先生

2016年のノーベル医学生理学賞に、細胞が自分のタンパク質を分解してリサイクルする「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明した・東京工業大栄誉教授(71)が決まった。日本人のノーベル賞受賞は3年連続で25人目だ。

生物の基本機能
「細胞のリサイクル」

医学生理学賞は昨年の大村智・北里大特別栄誉教授に続く4人目だ。

オートファジーは、細胞が正常な働きを保つための基礎的な仕組み。あらゆる生物に備わっており、これに異常があると病気につながる。人が病気にならずに健康を維持できる仕組みにも関係していることが分かり、がんやパーキンソン病などさまざまな病気に関わる生命現象を解明したことが高く評価された。多くの薬の開発にもつながると期待されている。

大隅先生は1988年に酵母を顕微鏡で観察中、細胞内に膜ができて不要なタンパク質を取り囲み除去するオートファジー現象を世界で初めて確認、さらにそのメカニズムや関連する遺伝子も次々に特定した。

オートファジーは、ギリシャ語の「自分(オート)」と「食べる(ファジー)」を組み合わせた言葉だ。

「人がやらない研究を」

約40年間も顕微鏡を通して酵母を見つめてきた。〝へそ曲がり〟を自認、「人がやらないことを研究したいと思っていた」と言う。また、若い教え子にはいつも「偉くなろうとしたら駄目。自由に研究できる時間を大切にしてほしい」と声を掛けてきた。

小中学生時代は昆虫採集に熱中。高校時代は風船に導火線や火薬をつないで遊んだり、自己流で酒もどきを造ったりした。いたずら好きの科学少年だったようだ。授賞発表後の記者会見では「生命現象には分からないことがたくさんある。『あれ?』と疑問に思うことを大事にしてほしい」「面白いと思ったことは、とことんやってみよう」と若者にエールを送った。

授賞式は12月10日にスウェーデンのストックホルムで行われ、賞金800万クローナ(約9500万円)が贈られる。大隅先生は賞金を若手研究者の支援に活用する考えだ。

 
 

電子顕微鏡で捉えた飢餓状態にある酵母の細胞内。白い大きな円が液胞で、その中に取り込まれた細胞質の一部が存在するのが分かる(東京工業大学大隅研究室提供)

大隅先生が若者に伝えたいことは

大隅先生は受賞決定後の10月7日、研究室のある東工大すずかけ台キャンパスで講演。オートファジー研究の歩みを説明した上で、若者に伝えたいこととして9項目を提示。「はやりを追う、競争だけが科学の本質ではない。人と違うことを恐れずに、自分の道を見極めてほしい」とメッセージを送った。