須磨学園高校(兵庫)吹奏楽部の木管三重奏は3月、「第46回全日本アンサンブルコンテスト」(全日本吹奏楽連盟、朝日新聞社主催)高校の部で金賞に輝いた。繊細な表現を追い求め、1音たりとも手を抜かない演奏をどのように磨いたのか。大会までの歩みを聞いた。(文・写真 木和田志乃)

情景を詳しく思い浮かべ

クラリネットの住本実優さん(3年)、アルトサクソフォンの大槻花香さん(2年)、フルートの藤本結愛さん(2年)の3人 が演奏した「見えない鳥たち」(田村修平作曲)は、鳥のさえずりを思わせる細かい旋律など音の数が多く、運指が難しいだけでなく表現力も求められる曲だ。

木管三重奏の3人。練習を重ね、意見を共有することで仲を深めた。食べ物の話で盛り上がることも。全国大会前日には「かつ」を食べた

3人は10月「曲から情景を思い浮かべること」から始めた。暗い森にある人が迷い込む。森の外れから鳥の鳴き声が聞こえる。鳥は見えないが何羽もいることもあれば、1羽の時もあるという。特徴のあるリズムが出てくれば、突然わめき出した動物の様子を、静かな曲調の部分では草が風に揺れる光景を想像するなど、場面ごとに「どのようなシチュエーションなのか」を話し合い、イメージを共有した。

難しい音量バランスを調整

指導した久永知史先生は、3人を「高いテクニックも練習への集中力も持ち合わせている」と評価する。アンサンブルの練習には地区、県、関西、全国の各大会前の約10日間で集中的に取り組み仕上げた。

大会前は毎日45分から1時間半ほど練習した。昼食を早めに食べ終わり、昼休憩を練習に充てたこともあった

特に音量のバランスを調整するために時間を割いて練習した。フルート、クラリネット、アルトサクソフォンという編成は楽器の音のバランスが難しいという。アルトサクソフォンの音量が大きく、フルートが聞こえにくくなることがあるのだ。録音した演奏を聞いてはバランスを取った。

大槻さんは「クラリネットと旋律を受け渡す瞬間は音をよく聞いて音量や音色を合わせてつなげた」と特別に注意を払った。

大槻花香さん。「アルトサクソフォンは金管楽器と木管楽器の間のようないろいろな音が出せるのが魅力」

「指と息だけ」を合わせ練習

この曲は3人でそろえる連符やメロディーが多く、「拍子やリズムが単純ではないので、自分の中でもカウントをしっかり取ることを意識していた」と住本さんは振り返る。

アンサンブルは人数が少ないので「ブレスが0.0何秒のズレでも目立ってしまう」(大槻さん)。さらには指揮者がいないので「息と動きだけで合わせなければいけないのが難しい」(藤本さん)。そのため音を精密に合わせるために、音を出さずに指と息だけで合わせる練習もした。音があったら気がつかないような、わずかな息づかいのずれや運指の乱れを修正することができたという。

住本実優さん。「ジャズが似合う音色から柔らかい優しい音まで幅が広いのがクラリネット。表現もかっこいい」

「この部分は大きく深く」「ここは抜けるような音で」など意見を出し合い、実際に演奏をしてみてどの演奏がしっくりきたか、何度も繰り返して確認していった。

合図の出し方で曲の緊張感表現

この曲には静寂を表しているような、誰も音を出していない間が何度か出てくる。音を出すタイミングの合図をすることが多かった藤本さんは、曲の緊張感が観客に伝わるように、合図の出し方も演技の一つとして模索したという。

藤本結愛さん。「フルートはあったかい音から透明感のある音まで出せる。鳥のような高い音も出せる」

練習を積み重ね、「楽しんで演奏したいなっていう気持ち」(藤本さん)、「他の演奏を聞いても左右されずに今自分たちができることをやるだけ」(大槻さん)と自信を持って全国大会に臨んだ。

細部まで繊細に表現した演奏は聴衆を引き込み、「音色・響きのバリエーションが多く素晴らしい。この編成で、こんなにも面白いのか、と思わせてくれた」と高く評価された。「自分たちが今まで一番頑張ってきた表現が伝わったんじゃないかな」(大槻さん)と喜んだ。

須磨学園高等学校吹奏楽部 

1999年創部。部員34人(3年14人、2年10人、1年10人)。平日は個人練習。全員での合奏は毎週土曜日の放課後1時間半。年に数回、地域のイベントなどに出演。日本ジュニア管打楽器コンクール本選考会金賞、日本クラシック音楽コンクール全国大会第1位など近年はソロのコンクールでめざましい成績を残している。