2022年12月10日、「第1回 東京農大SDGsコンテスト」(主催:東京農業大学)の最終審査が行われた。同コンテストは、SDGsの17の目標と、東京農業大学が掲げる「学びのキーワード」から、地域社会をより良くするために高校生ができること、取り組んでいることを競うコンテストだ。会場となった横井講堂(世田谷キャンパス)に集まったのは、全国75の高校から応募のあった384作品から選ばれた5作品をプレゼンテーションする高校生たち。1人5分間のプレゼンテーションを行い、厳正な審査によって最優秀賞1人、優秀賞2人、特別賞2人が選ばれた。

表彰式に出席した生徒と審査委員のみなさん

会場の誰もが舌を巻く 質の高い研究・提案をする高校生たち

コンテストは、江口文陽学長の挨拶から始まった。

「東京農業大学は日本で一番古い農学の大学です。幅広い学問体系があり、それは単に農学というだけでなく、総合農学としてけん引している自負があります。6学部23学科もの広い領域を学ぶ農学の大学は数少なく、その大学が、皆さんの提案する持続可能な社会をつくるためのコンテストを企画しました。これからプレゼンテーションをしてもらいますが、切磋琢磨し、ふだん通りの自分の力で発表してください」

「農学の学びはまさにSDGs」と話す江口文陽学長

学長の挨拶後、プレゼンテーションがスタート。先陣を切るのは、地元農家の役に立ちたいという阿部悠さん(岩手・県立花巻農業高校3年)だ。タイトルは「二子里芋と毬花を使用した長期保存可能ソーセージで農家さんの力に!」。毬花とはホップのこと。高校のソーセージ研究班に属す阿部さんは、SDGsの9番目の目標「産業と技術革新の基盤を作ろう」に着目し、ソーセージを長期保存するために必要な食材として毬花にたどり着いた。同時に、地元・岩手県北上市の特産品、二子里芋を使用することで、規格外や廃棄食材を有効活用したソーセージの商品化を目指した内容について発表した。

作品タイトルは「二子里芋と毬花を使用した長期保存可能ソーセージで農家さんの力に!」
阿部悠さん(岩手・県立花巻農業高校3年)

2番手は、仲村拓真さん(新潟・県立佐渡総合高等学校2年)。「『SDGs2飢餓をゼロに』へ向けて私達にできることーザンビア共和国の子たちへの食料支援―」をテーマにSDGsの「飢餓をゼロに」を目指す活動について発表。仲村さんは、授業でザンビアのストリートキッズの写真を見たことがきっかけで、高校で農業を学ぶ立場からの支援を考えた。自分たちで栽培した現地の食材・ネリカ米を送るだけでなく、孤児院でネリカ米を栽培して自活できるようにと、栽培マニュアルも一緒に寄贈したという。プレゼンテーションでは、実際に孤児院から「ネリカ米の栽培に挑戦している旨、連絡があった」とうれしい報告もあった。

作品タイトルは「『SDGsをゼロに』へ向けて私達にできることーザンビア共和国の子たちへの食料支援―」
仲村拓真さん(新潟・県立佐渡総合高等学校2年)

続く発表は杉山大樹さん(東京・私立武蔵高校2年)だ。SDGsからは「質の高い教育」を選択。環境保護活動のプロジェクトを幼稚園から高校まで行っているバリ島のグリーンスクールを訪問した杉山さんは、「心の底から理解する学び」の必要性に気づいたという。そこで提案したのが、今回のテーマでもある「東京農業大学と学ぶフードサイクル」だ。大学の特性を活かし、食の大切さを学ぶ機会のない都会の生徒を集め、毎週末、食のサイクルを実体験しようというプログラムだ。

作品タイトルは「東京農業大学と学ぶフードサイクル」
杉山大樹さん(東京・私立武蔵高校2年)

「つくる責任、つかう責任」を選んだ池嵜亮太郎さん(愛知・県立安城農林高校1年)は、「ミニトマト生産、販売における食品ロス低減への取り組み」と題して発表。高校の実習で、ミニトマト生産と販売を行っているが、約3割のミニトマトが破棄処分になるという。その食品ロス削減に取り組んだ体験だ。規格外品を大量に使ったハヤシライス「トマシライス」を飲食店と共同開発した実践的な活動が語られた。

作品タイトルは「ミニトマト生産、販売における食品ロス低減への取り組み」
池嵜亮太郎さん(愛知・県立安城農林高校1年)

最後は岩村みのりさん(熊本・県立熊本農業高校2年)が登場。テーマは「食品廃棄物を利用した持続可能な畜産経営の実践」。岩嵜さんと同じ「つくる責任、つかう責任」で食品ロス削減を目的とする点が共通するが、そのアプローチは異なる。エコフィード(従来廃棄処分となっていた食品を利用した家畜に与える飼料)の研究によって、食品廃棄物の削減だけでなく、食品企業の経費の削減、畜産農家の飼料費削減にも結びつく画期的な実践研究だ。

「食品廃棄物を利用した持続可能な畜産経営の実践」
岩村みのりさん(熊本・県立熊本農業高校2年)

俳優・工藤阿須加氏も高校生へエール

いずれのプレゼンテーションも、5分という短い時間に、応募時の小論文以上の情報を凝縮し、堂々と行われた。会場には、出場した高校生の関係者だけでなく、その日行われた大学見学会の参加者も観覧。同じ高校生の質の高い発表に、大学での研究活動に思いを馳せ、刺激を受けたのではないだろうか。

審査の間、かつて東京農業大学で学んでいた俳優の工藤阿須加氏による特別講演が、同学副学長の上岡美保教授との対談形式で行われた。自身も山梨県で野菜作りに取り組んでいる工藤氏。ビーツやオレンジ白菜などユニークな野菜も栽培しているそうだ。「僕が作ることで、こういう野菜もあるんだと消費者に知っていただく機会になると思うので、可能な限りのものを作っています」と話す。高校生のプレゼンテーションについても言及し、「レベルが高すぎてびっくり。一人ひとりと話して、情報交換したい。将来、何か一緒にできるかな」と高校生への大きな期待を抱いた様子。最後に高校生へのエールとして、「これからたくさんのチャレンジや試練を迎えると思いますが、失敗しない人はいない。失敗を繰り返して、いろんな人たちが何かを成し遂げていることを忘れないでほしい」と語りかけた。

最優秀賞に選ばれたのは「ザンビア共和国への食料支援」

そして、審査発表と表彰式を迎えた。特別賞に選ばれたのは、杉山さん、池嵜さん。優秀賞は阿部さん、岩村さん。最後に最優秀賞として名前を呼ばれたのは、ザンビアへの食料支援について発表した仲村さんだった。仲村さんは、「これまで先輩方が築いてきた活動で最優秀賞をもらえました。今後は後輩に引き継ぎ、ザンビア共和国への支援という目標を続けていきたい」とうれしそうに話す。

最後に、審査員を代表して、農林水産省畜産局総務課長の天野正治氏が一人ひとりの発表について講評を行った。最優秀の発表について「学んだことをただ発表するのではなく、自分で考えて何をするのか、に視点を置いたことがすばらしい」と評価した。

同学において、初めての開催となった今回のコンテスト。まるで毎年開催されてきたかのような質の高い研究を行う高校生たちが集まった。全国各地でこのようにSDGsにつながる実際的な取り組みが行われ、一生懸命自分にできることを考えている高校生がいることは、地球にとっての財産だ。それぞれの活動や提案を、今後もより深く追究しながら、よりよいものへと昇華し、大学や社会でより多くの人を巻き込みながら広げていってほしい。

第1回 東京農大 SDGsコンテスト 入賞者一覧

最優秀賞 『SDGs2飢餓をゼロに』へ向けて私たちにできること‐ザンビア共和国の子どもたちへの食料支援‐
仲村 拓真(新潟県立佐渡総合高等学校2年)
優秀賞 二子里芋と毬花を使用した長期保存可能ソーセージで農家さんの力に!
阿部 悠(岩手県立花巻農業高等学校3年)
食品廃棄物を利用した持続可能な畜産経営の実践
岩村 みのり(熊本県立熊本農業高等学校2年)
特別賞 ミニトマト生産、販売における食品ロス低減への取り組み
池嵜 亮太朗(愛知県立安城農林高等学校1年)
東京農業大学と学ぶフードサイクル
杉山 大樹(武蔵高等学校2年)