眼鏡が結露するほどの湿度、3月なのに汗ばむくらいの気温、道路を当たり前のように闊歩(かっぽ)する象と牛、呪文のような言語を操るサリー姿の人々……。中1の3月に私は父の仕事の関係でスリランカという国に足を踏み入れ、約2年半を過ごしました。ここではスリランカの「普通」を肌で感じて、翻弄(ほんろう)され、そして一皮むけてきた(笑)私の体験を紹介します。(高校生記者・わっちゃん=1年)

毎晩土砂降りか雷雨

赤道直下、インドの南に位置するスリランカは、年中高湿度高温で、毎晩土砂降りか雷雨です。英語が通じる国ですが、公用語はタミル語とシンハラ語で、ほとんどの人がこれらの言語を器用に操るマルチリンガルです。

英語、シンハラ語、タミル語の3言語表記の標識

 スリランカは仏教が多数派ですが、町の中はさまざまな宗教の建造物が当たり前のように混在する不思議な景観が広がります。都市部は高層ビルやショッピングモールがありますが、一歩道路を外れるとベニヤ板の屋台がひしめき合う商店街があり、現地の人々の活気を肌で感じることができます。

突然言われた「オマエハモウシンデイル!」

「日本での常識」と「超基礎レベルの英語」を装備してスリランカに乗り込んだ私は、現地のインターナショナルスクールに放り込まれました。転校初日にスリランカ人のクラスメートに言われた言葉は「オマエハモウシンデイル!」(しかも発音が素晴らしい)。「北斗の拳」からの引用であることを知らなった当時の私は、あぜんとしたと同時にこのカオスな状況にワクワクしていました。

現地のマーケットのフルーツ売り場

その後も、「品川プリンスホテルに泊まったことある?」「これドラえもんの20周年記念バッグなんだよね~」「センパイってどういう意味なの?」などと、みんなの親日ぶりがあふれる会話をたくさん交わしました。みんなアニメから日本語のフレーズを習得していて、教室では覚えた日本語で意味深な会話を交わすクラスメートが続出していました。

「新しいもの」を吸収するのに貪欲

これにはスリランカの混沌(こんとん)とした文化が関わっています。マルチリンガルが当たり前で、複数の宗教が混在する環境で暮らす彼らにとって、新しい文化に触れることは「普通」。加えて、新しいものを吸収するのにとても貪欲です。

都心にある、気軽に立ち寄れる寺院の中。雰囲気に圧倒される

第2外国語の中国語のクラスでは、みんなの漢字への対応力に驚かされました。基本は日本語で生活する私たち日本人にとって、スリランカはまさしく「カオス」。そんな環境の中で約2年半を過ごした私は、自分の「普通」を決めつけるのを諦めて、カオスな状況に身を任せることの楽しさを学びました。

現在、スリランカはデフォルトに陥り、大規模デモにより大統領は国外逃亡、物資の不足で大混乱の状態と聞きます。大好きなスリランカが大変な状況になっているのは、心が苦しい想いです。

今、改めてスリランカでの日々を思い返すと、数えきれないほどの「日本ではできない体験」をしましたし、この経験がこれからの人生でさまざまな物事に触れる上で、私の大きな武器になると思います。

テロやデフォルトをこの数年で経験したスリランカは今とても厳しい状態に陥っていて、とても苦しい思いです。わたしが今できることはセイロンティーを飲んでスリランカを思うことくらいですが、一刻も早く私が愛したスリランカに戻れ、もう一度スリランカを訪れられることを心から待っています。