体重50キロ台の高校生が筋トレに励み、1年半後にはまるで別人のようなマッスルボディーを手に入れた。さらに、ボディビルの全国大会で準優勝を飾った。そんな高校生ボディービルダーの斎藤昂成君(大阪・高槻高校3年)に、トレーニングの日々を聞いた。(文・中田宗孝 写真・本人提供)
やせ型からマッスルボディー、衝動的に筋トレを始めて
中学卒業を控えたある日、斎藤昂成君は衝動的に筋トレを始めた。それまで目立ったスポーツ経験がなく、当時は体つきもやせ型タイプ。中学の健康診断では、やせ型の人が発症しやすい「側弯(そくわん)症」(背骨が左右どちらかに曲がってしまう病気)と診断を受けたという。
「僕の場合、軽度の側弯症で体の痛みはありません。細身の体形がコンプレックスだったわけでもなく、本当に思いつきで筋トレをやり始めたんです」
筋力アップのためのウエートトレーニング法は、YouTube動画を視聴して独学で学び、ダンベルやベンチプレスといったトレーニング機器も自宅に導入。高校生になってからも1日約1時間の筋トレを続けた。「もうゲームに時間を費やしてる場合じゃなくなりましたね(笑)」
3カ月を過ぎたころには、大きくなった肩まわりなど体形の変化が目に見えて分かるようになり、トレーニングに熱が入った。学校のアメフト部の友人らと筋力を競いながら「自分のモチベーションにつなげていました」。
中学時代に診断された側弯症も改善され、レントゲン検査でも背骨の湾曲がほとんど見受けられなかったという。
ご飯一日4合、性格がおおらかに
増量のため、ご飯を1日1500g(約4合)にするなど食生活を変えた。「ほかにも、3時間おきに卵や鶏のムネ肉といったタンパク質を多く摂るようになりました。元々食が細かったので、最初はめちゃめちゃ苦しみながら食べてました(苦笑)」
食事面だけでなく、根気強く筋トレに励むうちに、内面の変化も感じるようになったという。「以前は短気な面もあったけどおおらかになったと思います。ストレスや落ち込むことがあってもトレーニングをすれば気分が晴れる」
また、日々の摂取カロリーを計算したり、いかに効率良く筋肉を付けられるか考えたりしたことで、柔軟な思考力が身についた。「ただがむしゃらに筋トレをするのではなく目的意識を持つ。胸、背中、太もも……鍛えたい部位にしっかり負荷がかかる、丁寧なトレーニングを常に心掛けていました」
友人とジム入会、「筋肉キャラ」に
高1の秋には、同じ学校の友人と一緒にジムに入会。週6日通いつめ、より専門的なトレーニングマシンを使って、自らの体に磨きをかけた。「このころからボディビルの大会に出場してメダルを取るという大きな目標を掲げました」
普段の学校生活では、日増しにたくましくなっていく体つきと、教室でプロテインを飲む様子などから「同級生たちからは“筋肉キャラ”として認知されてます」と笑う。「ボディービルダーって面白がられる一面もあるんです。今まで話したことない生徒が声を掛けてくれて仲良くなったり。文化祭ではダンスメンバーに誘われてステージで踊りました」
筋トレをはじめて1年半で全国2位に
昨年10月、斎藤君は、東京で開催された「第16回全国高校生ボディビル選手権大会」(日本ボディビル・フィットネス連盟主催)にエントリー。「大阪から来て何もなく帰れない」と、意気込んで臨んだ予選審査を突破し、決勝へと進んだ。
12人による決勝では、選手自ら選曲した音楽にあわせて制限時間1分以内にフリーポーズを披露する。審査員によって、筋肉の発達状態や体全体のバランス、ポージングの表現力などが採点され、斎藤君は見事、準優勝に輝いた。筋トレを始めてわずか1年半で、全国2位のボディービルダーに成長した。
「でも大会当日は喜びを爆発させる心境ではなかったんです」と明かす。「実はテスト期間中だったので、勉強の心配をしていたし、無駄な脂肪を落とすために苦しい減量をずっとしていて、大会後にコンビニで好きなお菓子をいっぱい買おうなんて考えてました」
みんなを楽しませる喜びかみしめ
大会準優勝の喜びは、学校の終業式であらためて行われた表彰時におとずれた。壇上で校長先生からうながされ、全校生徒の前で「サイドチェスト(横を向いて胸の厚みをアピールするポーズ)」を披露。生徒たちから大きな拍手を浴び、「みんなを楽しませることができました」と、喜びをかみしめた。
受験生となる3年生からは、勉強面にウエートをおく。「勉強のストレスがたまったら、トレーニングで発散しようかなと」。筋トレに打ち込んで得た成功体験を、受験勉強など、さまざまな場面で生かしていきたいと語る。
「正しい努力をすれば必ず報われるという経験がある。精神面も強くなりました。今後も自分の目標をかなえるため、120%の力で向かっていきたいです」