病院に行って医者から処方箋をもらったら、薬をもらうために調剤薬局に行きますよね。私の母は調剤薬局で薬剤師として働いています。母に仕事内容ややりがいなどについて聞いてみました。(高校生記者・ソワレ=3年)
患者に適切に薬を渡すエキスパート
―仕事内容は?
私が話す内容は「調剤薬局に勤める薬剤師」の仕事だからそれを前提に聞いてね。
大まかにいうと、薬剤師は患者さんが病院からもらってきた処方箋通りに薬を処方しているよ。
―どんな職種の人と普段仕事をしているの?
薬局に普段いるのは、薬剤師と調剤事務員さんだね。調剤事務員は処方箋の内容をコンピューターに打ち込んだり、会計をしたり、役所に提出するいろいろな書類を作成したりして薬剤師を助けてくれているよ。
ほかにも、薬を納入する問屋さんや、薬の営業をする製薬会社のMR(医薬情報担当者)さんとも協力しているよ。
―1日の流れを教えて
普段は大体、朝8時半くらいに出勤して昼ごろに交代で休憩、18時半ごろに仕事が終わるね。ただし、患者さんが多く来て、薬歴を書くのが終わってない場合はもう少し遅くなる。
それと定期的にMRさんが薬についての勉強会をしに来るね。
―薬歴って何を書くの?
薬歴には患者さんの個人情報や何の薬を処方したか、患者さんの訴え(症状の変化や副作用など)、患者さんの手元に薬が残っていないか、などの情報を書く。
うちの職場は電子薬歴を導入していないから、ほとんどを手書きで書かないといけないので結構大変だよ。患者さんが多く来た日は机の上にまだ書いていない薬歴が高く積み上がるよ。
目指したきっかけは子どもの頃の入院経験
―どうして薬剤師になろうと思ったの?
実は小さい頃は結構体が弱くて、何回も入院していたんだけど、そのときにいろいろな薬を使われたことで、薬について興味を持つようになったのがきっかけかな。
―この仕事をする上で必要な技術や資格は何?
基本的には薬剤師免許だね。ほかにも本人のやる気さえあれば、いろいろな認定薬剤師や専門薬剤師などの資格も取れるよ。
薬を調剤するための特殊な技術や患者さんとのコミュニケーション能力も当然必要だね。
―それらの技術や資格はどうやって身に付けるの?
薬剤師免許は大学の薬学部に通った後、国家試験を受けて取得するよ。
それと高校生に一応忠告しておくんだけど、今は昔と制度が変わって、薬剤師国家試験を受けるためには6年制の薬学部を出ることが必須になって、4年制の薬学部では受験できなくなったから気を付けたほうがいいね。
ほかの認定薬剤師などの資格は、自分で研修を受けて取得する。
調剤に関する技術はある程度大学で教わるけど、完全ではないから、就職してから覚えた部分も当然あるね。患者さんとのコミュニケーション能力は仕事をしながら身に付けるしかないね。
―この仕事でやりがいを感じるのはどんなとき?
月並みだけど、患者さんやそのご家族、ケアマネージャーさんから感謝してもらえたときだね。
特に、最近では高齢の患者さんが多いから、その人たちがきちんと薬を忘れずに服用できるよういろいろな工夫をしないといけないんだけど、その工夫が実って患者さんやご家族、ケアマネさんなどから感謝されるとうれしいね。
うちの薬局は結構地元に密着していると思うんだけど、患者さんが薬をもらいに来たついでにいろいろなものをくださることもあるね。例えば、この前職場から持って帰ってきたお菓子も患者さんからの差し入れだよ。
患者の命に関わる責任ある仕事
―大変なのはどんなとき?
製薬会社やほかの大手薬局、ドラッグストアなどが不祥事を起こしたときは、私たち薬剤師も患者さんにいろいろ言われるから大変だね。
―例えば?
直近でいえば去年の終わりごろ、水虫の薬に睡眠薬が混入した事件が起こったんだけど、あのときも患者さんからいろいろ言われて大変だったね。もちろん事件が起こった後、すぐにその会社の薬は薬局から完全に排除したから、今は安全だよ。
あとは、薬剤師がいろいろ患者さんに質問をすると思うけど、それに答えてくれない人もいることかな。特に、患者さんが「その日どういった症状でその薬を処方されたか」質問をしたときに、怒り出す人がいるね。
―それは大変だね。薬剤師はなぜ患者さんにそのような質問をするの?
主な目的は、患者さんが持ってきた処方箋の内容が本当にその人のものか、処方箋の内容が別人のものにすり替わっていないか、確認することだね。
わかりやすい例を挙げると、例えば高血圧の患者さんがいたとして、その人に血圧を上げる薬を与えたら大変なことになるのは想像がつくよね。もしそのような処方箋が持ち込まれたら、私たち薬剤師はその処方箋が発行された病院に問い合わせて、本当にその処方箋が正しいものなのか確認を取るの。
薬剤師が勝手に薬を変更すると法律違反になるから、そのようなときはすべて医師の許可をもらわなければならない。これを疑義照会というよ。今の職場ではめったに起こらないけど、前の職場では隣接している病院の管理体制が甘かったから、患者さんの取り違えがたまに起きていたね。
症状の質問は本当に大事だから、面倒くさがらずにきちんと答えてほしい。
―責任重大だね。大変なことと言えば、コロナ禍で何か職場に変化はあった?
まず、出勤前に検温が義務付けられた。ほかにも、消毒液があちこちに設置されたり、カウンターに板が設置されたりしたことだね。当初はアクリル板がなかったから、農家が使う薄いビニールフィルムだったんだけど、風でひらひらして邪魔くさいと患者さんから不評だったね。
あとは、当然職員はみんなマスクをするんだけど、この仕事は意外と動き回るから暑いね。
患者さんの入りに関しては、去年の春に1回目の緊急事態宣言が出たときは、ほとんどだれも来なくなったけど、今はほぼ平常通りだね。最近ではワクチン接種が病院でも始まったから、解熱剤の処方が増えているよ。
外国語が分かると仕事に生きることも
―この仕事は将来どのように変わっていくと思う?
調剤薬局の薬剤師についていえば、今後機械化で人が減ることはあってもなくなりはしないと思う。
薬の調合はすでにいくつかの作業が機械化されているけど、接客は人間にしかできないと思う。これは、機械が何か間違いを犯しても法律上責任が取れないから、人間が最終チェックをする必要があるのと、そもそも患者さんが機械と話すのを嫌がる人もいると思うから。特に高齢の患者さんならその傾向はなおさらなのでは。
―この仕事を目指す高校生が今やっておいたほうが良いことは?
そもそも大学の薬学部に受からないと始まらないから、当然勉強が必要だね。特に理系科目は、大学に入ったらより専門的なことをやるから、高校の範囲が完璧にできていないと大学に入ってから苦労するよ。
次に、外国語をある程度やっておくといいよ。具体的に何の言語がいいかは、地域ごとに違うだろうから何とも言えないけど、今勤めている職場は近くに自動車工場があって、そこに勤めている中国人労働者が結構来るから、中国語を勉強しておけばよかったと後悔しているね。
あとは、薬剤師の仕事についていろいろ調べることかな。私は就職して以来数十年、調剤薬局でしか働いたことがないんだけど、薬剤師は薬局のほかにも病院、製薬会社、警察、地方自治体や厚生労働省など、さまざまな場所で働けるから、将来自分がどうなりたいのかある程度は調べておくといいと思うよ。
【取材後記】母のように責任感を持って仕事したい
今回取材を通して、今まで詳しくは知らなかった母の仕事について少し知ることができました。薬剤師は私たちを薬による健康被害から守る最後の砦のような役割をしていると知り、自然と母に対して尊敬の気持ちがわいてきました。
私は、母とは全く違う道に進みますが、将来は母のように責任感をもって仕事に一生懸命取り組みたいと思います。