全国高校柔道選手権女子52キロ級を制した阿部詩(左=4回戦)

第39回全国高校柔道選手権の個人戦が3月19日に日本武道館(東京)で行われ、女子52キロ級は阿部詩(兵庫・夙川学院1年)が初優勝を果たした。(文・小野哲史、写真・中村博之)

「高校生には負けられない」重圧でよく眠れず

3歳上の兄は「次世代のエース」と言われる男子66キロ級の阿部一二三(日体大)。自身は2月のグランプリ・デュッセルドルフ大会を、IJFワールド柔道ツアー史上最年少の16歳225日で制し、いやがおうにも注目が集まっていた。前夜はよく眠れなかったという。

「高校生には負けられないという気持ちが大きくて、緊張しました。(初戦敗退した昨夏の)インターハイがフラッシュバックして恐かった」

他校での「出稽古」で成長

それもあって初戦の2回戦は「少し動きが硬くて」慎重な入りになったが、肩固めで一本勝ちを収めて勢いに乗った。上四方固めで勝った3回戦と、押さえ込みから腕がらみが決まった4回戦は、いずれも試合時間が1分以内。初戦から3試合連続で冴えを見せた寝技について、阿部は「自分でもびっくりするくらいできた。うれしかった」と素直に喜んだ。

もともと立ち技には定評があった。しかし、寝技が得意ではなかったため、昨年の夏に他県の強豪校に出向き、寝技を基礎から徹底的に磨いた。松本純一郎監督も「今まではすぐに立とうとしていたのが、自ら寝技に行くようになった。相手にプレッシャーがかかるし、良い展開に持っていける」と、出稽古の成果をそう分析する。

兄から「頑張れよ!」と発破をかけられて臨んだ準決勝は「技を決め切れなかった課題が残った」(阿部)ものの、決勝は開始わずか21秒で袖釣り込み腰による鮮やかな一本勝ちで児玉風香(愛媛・新田2年)を破った。阿部は「プレッシャーもあったけれど、決勝ではいい所を見せられました」と、ほっとした表情で笑顔を見せた。

ただ、この栄光も20日の団体戦も、阿部にとっては通過点の一つに過ぎない。現時点での最大の目標は、8月にハンガリーで行われる世界選手権の代表選考を兼ねた、2週間後の全日本選抜体重別選手権(4月1・2日、福岡)だ。

「思い切りやるだけ。時間もあまりありませんから、技に磨きをかけるというより、気持ちを詰められるようにしっかり準備をしたいです」

若い力を爆発させてシニアのトップ選手たちに挑み、阿部は偉大な兄とともに世界へと羽ばたく。

あべ・うた 2000年7月14日生まれ、兵庫県出身。兵庫・夙川学院中卒。5歳から柔道を始め、中学3年次に全国中学校柔道大会で優勝。昨年、講道館杯3位、グランドスラム東京2位など大きく飛躍した。得意技は内股と袖釣り込み腰。158センチ。