全国高校サッカー選手権の出場は30 回を数え、優勝1回、準優勝3回を誇る。高校サッカー界を代表する名門校の強さの秘密は、対戦相手を想定し具体的なテーマを定めた、約2時間の濃密な練習にある。(文・写真 白井邦彦)
練習は数分間の瞑想で始まる。
樋口士郎監督(53)から練習のポイントを聞くと、部員全員がグラウンドにあおむけに寝転がる。主将の坂圭祐(3年)=三重・内部中出身=は「学校生活からサッカーへと気持ちを切り替える儀式。イメージトレーニングも兼ねています」と話す。昨年のプリンスリーグでキックオフが30分遅れた時も、試合直前にこの儀式を行い、集中できたという。
瞑想が終わると、約25人が横2列に並びパス練習を始めた。単にボールを蹴り合うのではなく、受け手が列の中央まで動き、ワンタッチで相手をかわすトラップを入れてから逆方向へパスを返す。試合でポジションチェンジするように、パスの受け手を代えながら練習は進む。
基礎練習が終わると、日ごとのテーマに沿った練習を始める。この日のテーマは守備の連係。約20㍍四方のエリア内で、4対4の対戦形式でボールを回す。4人の連係を意識した守備の練習だ。監督から「距離感を考えて」と指示が飛ぶと、選手たちはポジショニングを修正する。
4対4の次は6対6、そして8対8へと徐々に人数を増やし、守備上の注意点を確認する。最後の8対8が1日の総仕上げで、樋口監督は「今日やってきたことを意識して」と、げきを飛ばした。
GKの中村研吾(3年)=同・倉田山中出身=は「試合が近い時は、対戦相手を想定したテーマを監督に組んでもらいます。練習でも試合と同じ緊張感と集中力が保てるのは、テーマが具体的だからかもしれない」と言う。
練習時間は平日2時間と短い。その中でいかに質を高めるか。何となく練習するのではなく、日ごとにテーマを設けることが強さの秘密だ。
毎年、部員は100 人くらいになります。それを1人で見ると、どうしても目の届かない部分が出てきます。だから、ウチでは選手のスキルに応じて4つのカテゴリーに分けて練習をしています。そして、各カテゴリーに1人の指導者が付く。私が受け持っているのはトップチームで部員は約25 人。私のほかにコーチが4人います。外部からはGKコーチとトレーナーにも協力してもらっている。充実したスタッフによって部は支えられています。 トップチームの選手でも、あぐらをかいていれば下へ落ちます。選手にとってはシビアな環境ですが、お互いに刺激し合えることも強みでしょう。
サッカーのスタイルでは、攻守の切り替えの早さにこだわっています。FC バルセロナ(スペイン)が魅力的なサッカーをできるのも、ベースの部分で早い攻守の切り替えがあるからです。
切り替えを早くするためには高いスキルが必要となりますが、必要以上に複雑な練習はせず、基礎的な練習を重視しています。基礎を身につけた方が、大学やプロ、指導者といった次のステージで必ず生きると考えているからです。
理想は、全員が周りから「信頼される選手」になること。一人一人が自立して信頼される選手になれば、自然とチームは強くなると思っています。