あなたは自分自身のことが、好きですか? 自分じゃない自分に生まれたかった。そう思う人に手に取ってもらいたい小説「ふたり、この夜と息をして」を高校生が紹介します。
私として生まれてきてよかったと思える本
『ふたり、この夜と息をして』北原一著(ポプラ社、1500円=税抜)
私は「私」として生まれてきてよかった、ということを思わせてくれた本が『ふたり、この夜と息をして』です。
男子高校生の夕作まことは、生まれつきある顔の痣を隠すために祖母に教えてもらった化粧をして生活しています。夕作はそれがバレることを恐れて、人と関わらずに平坦な日々を静かに過ごすことを望んでいました。
しかしある日、夕作は新聞配達のバイトの帰りにクラスメイトの女子生徒、槙野がタバコを吸っているところを目撃してしまい、一方、槙野も夕作の化粧のことを知ってしまいます。この作品はそんな「秘密」を抱えた2人が出会い、強く優しく成長していくお話です。
人とのつながりの大事さを知る
この作品には夕作と槙野のほかに、2人が成長していく過程で欠かせない仲間たちが登場します。それが遠藤、野中、竹田の3人です。どの人物もそれぞれ個性があって、丁寧に繊細に描かれています。夕作と槙野を含めたこの5人には、お互いを尊重しあっているからこその優しさが生まれています。
人と関わることを避けてきた夕作も、この仲間たちと接するなかで人とのつながりを大事にするようになり、成長するきっかけとなっています。
私じゃなきゃ出会えなかった人がいる
私はこの作品を読んでいて、心が救われる言葉にたくさん出会いました。
特に好きな言葉は「自分じゃなきゃ出会えなかった人たちを好きになることは、できるよ」です。これは、違う人に生まれたかったと毎日、毎朝思うと言う夕作に、養護教諭の野原先生が言った言葉です。
私には小さいときからコンプレックスがあって、今までに何度も「違う人に生まれたかった」と思うことがありました。でもこの文を読んだとき、自分が自分として生きていたからこそ出会えた人がいて、その人たちが私によい影響を与えてくれているのだ、ということに気付きました。
それに気付いたとき、私は止まらないほど「自分じゃなきゃ出会えなかった人」が思い浮かんだのです。私はこの言葉のおかげで新たな視点で物事を見ることができました。
この作品は、読んだあとに自分のことも周りの人のことも、今よりもっと好きになれる1冊だと思います。心あたたまる言葉がたくさん詰まっているところも魅力の一つ。この作品を読んで、みなさんもお気に入りの言葉や大切にしたい言葉を見つけてみてください。(高校生記者・manami=2年)