[立教大学 異文化コミュニケーション学部 武田珂代子教授・Tony Hartley教授]
英語が好きな高校生にとって、通訳・翻訳者は憧れの職業の一つではないだろうか。
異文化コミュニケーション学部の武田珂代子教授は「世界中で村上春樹が読まれているのも、日本のアニメやゲームが人気なのも翻訳する人がいるから」と語る一方、高校生・大学生の通訳翻訳に対するイメージが映画スターの通訳や文芸・字幕翻訳などに偏っていることも指摘する。
「市場規模でいえばそれらは数%。実際にはビジネスの現場で必要とされる通訳翻訳がほとんどであること、外国人が被告人・証人になるときの『法廷通訳』、医療にかかるときの『医療通訳』など、専門的な役割も多いことをまずは知ってほしいと思います」
武田教授の授業では、実際に通訳・翻訳者になるためのスキルの他、通訳翻訳が必要とされる社会的・文化的な背景も学ぶ。
「江戸時代のオランダ通詞や唐通事は世襲でしたし、東京裁判で通訳したのは外務省の役人。歴史的に日本ではバイリンガルな環境で育った人がたまたま通訳・翻訳者になるケースが多かったようです」と武田教授はいう。
「ただし現在、プロフェッショナルな通訳・翻訳者になるのは専門的な訓練を受けた人がほとんど。大学に入学するまで海外経験のなかった学生も、訓練すれば必ず通訳・翻訳者になることができます」
国際基準に則った養成プログラムがスタート
世界の主要国では、大学・大学院での学位取得がないと通訳・翻訳者として認められない。異文化コミュニケーション学部・大学院では来年4月、基準があいまいだった日本で初めてISOなどの国際基準に則った本格的な通訳・翻訳者養成プログラムをスタートさせる。プログラムを修了すると授与される「修了証」は、通訳翻訳のプロフェッショナルであることの国際的な証明になる。
「本プログラムの特長はクライアントとの交渉やリサーチなど、通訳翻訳に関わる総合的なスキルを系統的に学べること」と武田教授。大学内外のクライアントに翻訳・通訳を提供する学生プロジェクトも展開する予定で、「留学生のための資料の英語化、学内外で行われるミーティングの通訳・翻訳など、教室で学んだことを活用するサービスラーニングによって得られるものは大きいはずです」
この他、翻訳テクノロジーの世界的な権威でもあるTony Hartley教授を中心に、翻訳メモリーなどの最新ツールを使いこなせる人材の育成にも力を入れる。Tony Hartley教授は「いまや翻訳者はソフトウェアを介してさまざまな国の仲間と協力して仕事をします。ソフトウェアに関する知識は不可欠です」と話す。
武田教授のゼミで学ぶ7人のうち、来年は2人が大学院で通訳翻訳の勉強を続ける。また商社など一般企業に就職する学生も、業務を通じて英語に関わる機会は多い。
「通訳翻訳の仕事をするとき、社会人経験はとても役に立ちます。一度社会にでてから大学院に戻る、社内通訳・翻訳者になるなど、選択肢はさまざまに広がっています」と武田先生。高校生には「通訳翻訳の仕事には幅広い知識と好奇心が必要。たくさん本を読み、英語力はもちろん、日本語の文章力も磨いてください」とアドバイスを送った。
先輩に聞く |
寺田麻美さん・異文化コミュニケーション学部4年 (秋田県立秋田中央高等学校出身) Tony Hartley教授のご指導の下、自治体のホームページに特化した機械翻訳辞書を作るプロジェクトに参加しています。現在自治体のホームページは、統計的なデータをもとにした機械翻訳システムを採用しており、誤訳がとても多いのが実状。完成すれば自治体ホームページの改善につながり、日本に暮らす外国人の役に立てるのではないかと思っています。 |
森川紗妃さん・異文化コミュニケーション学部4年 (茨城県立土浦第一高等学校出身) 法廷通訳者は海外では被告人の隣に立ちますが、日本では被告人と離れた位置に向かいあって立ちます。卒業研究ではこうした立ち位置が通訳者や被告人、裁判員などに与える心理的な影響について、模擬法廷での調査などを通して検証していく予定です。卒業後は商社に就職を希望していますが、将来的にはまた通訳・翻訳者になるための勉強をする機会がもてればと考えています。 |
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