森見登美彦さんが書いた中でオススメの小説を高校生記者に紹介してもらいました。(価格は税抜)

サークル選択で変わる大学生の運命は

四畳半神話大系』(角川文庫、680円)

主人公のサークルの選択によって変わる、4つの並行世界での大学生活を描いた作品です。「福猫飯店」という怪しげな組織や自主映画サークル、「弟子求ム」という怪しいビラの団体などから、主人公はサークルを選択します。

主人公はばら色の大学生活を求めて東奔西走するのですが、どの並行世界でも上手くいっているとは言い難く……。特にどの世界でも、小津という悪友とは必ず関わってしまうのです。

設定も魅力的ですが、何より森見登美彦さんによる独特な描写、「魚肉ソーセージのようにプリプリ怒る」など読んでいてついクスッと笑ってしまいます。森見さんの母校、京都大学を思わせる描写も多数なので、憧れている方はぜひ読んでみてください。(大納言小豆=2年)

『四畳半神話大系』(角川文庫、680円)

「大学で黒髪の乙女と出会い、素敵な仲間をもつ」という理想。「大学で悪友と、悪戯ばかりをする」という現実。『四畳半神話大系』の主人公は、理想と現実との大きな落差に悩まされます。あいつに出会わなければ。あっちのサークルに入っていれば。そのような並行世界に主人公は迷いこみます。

作者・森見登美彦さんの、表現の幅の広さに惹かれました。本の中には、いたるところに物語をさらに深くさせるヒントが隠されていて、読んでいると、さっき読んだ文はここにもつながるのか、とはっとさせられます。そして、もう一度読み返したくなります。

主人公がもし別の選択をしていたら、どのような現実が待ち受けているのでしょうか。ぜひ読んでみてください。(ざわ=2年)

あの名作を現代風にアレンジしたら?

新釈 走れメロス 他四篇』(角川文庫、520円)

いわゆる名作と呼ばれる作品を現代に置き換えて書いた、短編からなる本です。どの話も舞台は京都で、原作の要素を残しつつ、独特の面白味がプラスされています。

私がいちばん面白いと思ったのは「走れメロス」です。主人公は、自身が所属する詭弁論部のために偉い人に逆らいます。桃色のブリーフ姿で、ステージで踊るという約束をしますが、姉の結婚式のために待ってくれと頼み、友人を人質にします。

しかし、当人は約束を守る気がゼロで、ひたすら京都を逃げまわります。鴨川を泳いだり嵐山に行ったりと、京都のスポットがうまく織り込まれています。また、人質となった親友も「あいつは来ない」と断言するなど、2人には妙な「信頼感」があるのです。(大納言小豆=2年)

『新釈 走れメロス 他四篇』(角川文庫、520円)

祇園祭を舞台にした連作短編集

宵山万華鏡』(集英社文庫、480円)

バレエ教室の帰り道、宵山の祇園祭に寄り道した姉妹。姉とはぐれた妹が出会ったものとは?(「宵山姉妹」)

「宵山様」が支配する祇園祭で立入禁止区域に迷い込んでしまった藤田は拘束されてしまい…。(「宵山金魚」)

宵山の露店で買った万華鏡の中に現れたのは、20年前に姿を消した娘だった。(「宵山回廊」)

宵山の祇園祭を舞台にした連作短編集であるこの作品。

最後に全てがつながり、スッキリ。そして読後の余韻が残る、なんとも不思議な気持ちにさせられる作品です。

森見さんの魅力である軽快な文章、個性的なキャラクター、そして幻想的でどこかゾクリとする独特な世界観が詰め込まれた1冊になっています。ぜひ読んでみてください!(サラ=1年)

『宵山万華鏡』(集英社文庫、480円)

小学生とお姉さんのひと夏の物語

ペンギン・ハイウェイ』(角川文庫、640円)

「ぼくはたいへん頭が良く、しかも努力をおこたらずに勉強するのである。」

こんな一文から始まる物語の主人公は、とってもオトナびている小学4年生のアオヤマ君。ある日のこと、彼が住む郊外の街に突然ペンギンたちが現れた。彼は「ペンギン・ハイウェイ」と名付け、研究を始める。すると、どうやら歯科医院のお姉さんと関係があるらしい。

なぜ、ペンギンは突然現れたのか…?

この作品は、2018年に映画化もされました。ちょっとずつ、アオヤマ少年によって解き明かされていくペンギンの謎。同級生とのプチ冒険。読み進めていくうちに感じるお姉さんとの絆。

フワフワとしたファンタジーの世界の中で、切なさなど、温かい感情が溢れる物語、ぜひご一読ください。(サラ=1年)

『ペンギン・ハイウェイ』(角川文庫、640円)

ホラーな雰囲気にゾクゾク

夜行』(小学館文庫、610円)

この作品は直木賞と本屋大賞にダブルノミネートされています。

10年前、なぜ「長谷川さん」は姿を消してしまったのか。学生時代の仲間たちが経験した事柄の、不可解な共通点は何を意味しているのか。岸田道生という銅版作家は一体何者なのか…。ホラーな雰囲気が漂います。

森見さんの作品は情景描写が細かいので、まるで自分自身がすべてを経験したかのようでした。ファンタジーな部分にも現実味が感じられ、それに恐怖をかきたてられます。自分が物語の中に迷い込んでしまったようにも感じられました。

私のオススメポイントは、あの世とこの世が混じり合っているような、気味の悪い世界観です。お祭りという、身近でありながらあの世へとつながっているような場が、嫌に現実味を出し、私たちの日常生活さえも不安にします。最後までゾクゾクし続ける小説です。(チュッパチャプス=2年)

『夜行』(小学館文庫、610円)