日本を代表する文学賞の一つ、直木賞の候補となった小説を高校生が読んで選考したら……。そんな試みが「高校生直木賞」(同実行委員会主催)だ。5月に全国から12人の高校生選考委員が東京に集い、熱い議論の末に選んだ作品は、木下昌輝さんの「宇喜多の捨て嫁」だった。本家の直木賞では選ばれなかった時代小説に高校生が引かれた理由とは。(砂崎良)
フランスには「高校生ゴンクール賞」という文学賞がある。毎年2000人以上の高校生が参加し、権威あるゴンクール賞の候補作から独自に1作を選ぶ。これにならって、小説誌「オール讀物」が「高校生直木賞」を昨年初めて企画し、4校の生徒が選考に臨んだ。今年は規模を拡大し、参加校を公募。12校が名乗りを上げた。
候補作は「本家」と同じ
参加校は手分けして、直近2回の直木賞候補作を読み、推薦作を決める。各校の推薦状況に基づいて決まった最終候補5作品をあらためて読み込んだ上で、5月5日に文藝春秋(東京)で開かれた選考会に各校1人ずつの代表が参加した。
選考会では、最終候補5作品を投票と話し合いで、西加奈子さんの「サラバ!」と「宇喜多の捨て嫁」に絞り込み、最後は挙手で「宇喜多の捨て嫁」に決めた。選考は、予定時間をオーバーする白熱ぶりだった。
「新たな世界」を評価
内心では「サラバ!」を推していたという秋山悠歩さん(宮城・仙台第二高校3年)は「選考会で皆さんと議論をした結果、『宇喜多』は歴史に興味を持つ入り口として、とても良い小説だと気付いた」と言う。「新たな世界が開けるという意味では『宇喜多』の方が高校生にとっては良いと納得できた」
山田航輝君(神奈川・平塚江南高校3年)は「『宇喜多』は、悪役イメージの強い宇喜多直家の背景をきちんと描いて、主人公としての存在感を示せていた」と図書委員らしい見識を示した。
近藤優奈さん(静岡・磐田南高校3年)は「皆さん、とてもたくさん本を読んでいて驚いた」と脱帽した様子。「本の内容を語るには準備が必要。これからもっと頑張りたい」
今一番面白い小説を読んで
実行委員会代表の伊藤氏貴・明治大学准教授は「高校生は普段、大人のつくった物差しで測られる立場だが、この賞では高校生自身が『どういう物差しで作品の良さを測るか』を議論し、『読み終わった後、新たな世界が開けるか』という物差しが自然に生まれた。この賞を通して高校生には、教科書に載っていない、今一番面白い小説を読んでほしい」と、賞の意義を語った。
■受賞作
木下昌輝「宇喜多の捨て嫁」(文藝春秋)
娘を捨て駒として政略結婚させる非情な戦国武将・宇喜多直家を描いた時代小説。
■その他の最終候補作
西加奈子「サラバ!」上下(小学館)、万城目学「悟浄出立」(新潮社)、柚木麻子「本屋さんのダイアナ」(新潮社)、米澤穂信「満願」(新潮社)
■参加校
(北海道)函館(岩手)盛岡第四(宮城)仙台第二(千葉)鎌ヶ谷(東京)麻布、南多摩中等(神奈川)平塚江南、向上(静岡)磐田南(大阪)大阪薫英女学院(福岡)明治学園、筑紫女学園