高校生が木工職人や林業家など森や海、川の名人に取材し、文章にまとめる「第17回聞き書き甲子園」(実行委員会主催)が行われた。増田遥さん(佐賀・弘学館高校3年)は、長崎県で漁業を営む「海の名人」の江川重明さん(71)の生きざまに迫り、優秀作品賞8人のうちの1人に選ばれた。

再会の約束を交わした増田さん(左)と江川名人
 

自分を見直すきっかけに

昨年、江川さんに2日間密着して、聞き取りをした。20歳で漁師となった江川名人は、リールや網を使わない一本釣りで漁を行っている。自作の釣り糸を素手で操り、魚種に応じた5種類の釣り漁法を駆使してイカやイワシ、サンマなどを釣り上げるという。 増田さんは、名人が自然から人生哲学や多くの知識を学んでいると気がついた。「どんな環境でも積極的に学ぶ姿勢があれば自分を成長させることができる。名人を見習い、何事にも受け身がちな自分を見直したいと思いました」

自然との向き合い方学ぶ

取材を終えた増田さんは、約1週間で作品を仕上げた。文章は、名人のなまり言葉を交えたひとり語りでつづられた。江川名人が語る「私たちは自然と協力し合って、足りないところを補いながら生きていくべきだよ」という言葉に深く感銘を受けた。「漁獲量に制限をかけて海の環境を守るのではなく、自然と共存しながら生きている名人。私の考えにはなかった、自然との向き合い方でした」  将来の夢が見つからず悩んでいた自分を変えるきっかけになればと聞き書き甲子園に応募した増田さん。聞き書きを経験して自分の視野の広がりを感じた。「江川名人との出会いはもちろん、『聞き書き甲子園』に参加した同世代の人たちの交流を通じて、さまざまな考え方を知り、刺激を受けた。これからの自分に役立つ学びを得ました」。大学受験を終えたら、江川名人の元を再び訪ね、一緒に釣りする計画を立てている。「長崎の海は透明できれいなんです。早く行きたい」と、胸を高鳴らせている。