東京都品川区にある大崎高校には都内で唯一、防災活動を行う専門の部活「防災部」が存在する。一体どのような活動を行なっているのか、全く想像ができないという読者がほとんどだろう。そこでベールに包まれたその実態に迫るべく、同校防災部に取材を敢行。部員たちが活動を続ける理由や活動を通した学びなどを聞いた。(文・写真 山川俊行)
都内で唯一の部活
大崎高校防災部は、防災活動を専門に行う珍しい部活だ。区や町会などの防災訓練や地域住民に向けたAEDの操作指導といった、地域密着型の活動を展開しているという。2017年には東京消防庁消防総監表彰、模範青少年団体として都知事表彰も受けるなど、実績は折り紙付きだ。
また防災活動以外にも、東日本大震災の記憶を風化させないための取り組みも行っている。津波被害を受けた宮城県石巻市から、塩害に負けずに芽を出したという「ど根性ひまわり」の種30粒もらい受け、2015年以来校内で栽培を続けている。今年の夏には8世となる1000株のひまわりが大輪の花を咲かせた。種子は近隣の学校に提供しており、徐々にその輪が広がっているそうだ。
そもそもなぜ防災部に入部を?
高校のある品川区の豊町界隈では、名の知れた存在である同校防災部。そもそも部員たちは、なぜ防災部に入ろうと思ったのか? 生徒たちに訊ねてみると「兼部が可能であること」と「人の役に立てること」の2点に大別されるようだ。
防災部の活動は、週末に開催される地域イベントへの参加が主になる。平日の部活動とは時間がバッティングしないため、兼部が可能になるというわけだ。また上述したように、活動自体が住民たちへの防災指導であって、ボランティア活動に従事したい生徒にとっては絶好の機会なのだろう。
自ら学び、判断する
活動を通して得られることも多い。顧問を務める庭野裕先生は、部活動になる前の防災活動支援隊時代から約7年間、生徒たちを指導してきた。「防災部では、生徒自身が自ら考え、行動することを徹底しています」。庭野先生が言うように、防災の知識を自発的に学ぶところから部員たちの活動は始まる。
部長の濵本純玲さん(2年)は、「責任感を大切にしています。人の命に関わることなので、間違いのない情報を責任もって伝えていかなければならないと思います」と話す。防災の知識を正確に理解したうえで、それを正しく伝える力も大切だ。
どうすれば相手に理解してもらえるかを考え、常に他者目線を意識する。そういう機会が多いからこそ、コミュニケーション能力を鍛える場にもなっているようだ。「防災訓練で、先輩がやさしくAEDの指導をしているのを見て真似てみたら、『わかりやすくていいね』と言われたのが思い出です(磯目健太・3年)」
図書館との防災コラボも
土日の防災訓練とあわせて、防災意識の啓発や募金活動にも力を入れているという。
2月1日から28日までの約1カ月間、品川区立二葉図書館では「総力特集 防災 ~いざというとき あわてないために~」と題した特集が組まれていた。非常食や防災グッズ、図書館所蔵の防災図書などを館内のいたるところに展示し、利用者の防災意識を高めるのが狙いだ。
そんな展示の中でひときわ目を引いたのが、防災部との共同で企画した掲示コンテンツ。部員が選ぶオススメの防災本や、災害時に役立つ情報などが巨大な模造紙にまとめられている。企画から制作まで、すべて部員たちの手で作り上げられたものだ。
「テーマ選定については、専門家である防災部にお任せしました。1月に入って作成を開始していただき、限られた時間の中で最高のものを作っていただいたと感謝しています」。二葉図書館館長の柿島竜也館長は、今回の連携をこう振り返る。
地域の人々に支えられて
3年生の早坂愛梨沙さんは、地元商店会で行った西日本豪雨の募金活動で、場所の許可取りや交渉に挑戦した。「最初に商店街の人に許可をもらいに行くとき、庭野先生が付き添ってくれると思ったら、『がんばってね、いってらっしゃい!』と言われて。もう、不安でした(笑)。でも実際に話す内容を先生としっかり相談していたので、ちゃんと許可をいただけました」。
2日間の募金活動の結果、集まったお金は総額10万円を超えた。大崎高校の防災部の活動だったら協力する――。普段から地域の人々とのコミュニケーションを大切にし、地域貢献を続けて勝ち得た信頼の証ともいえる。
「緊急時には他人との協力が欠かせません。地域の防災訓練に参加するときには、積極的に住民の方とコミュニケーションをとるようにしています」(市川三起・3年)
「自分だけが防災の知識について詳しくなるだけでは活動の価値が下がってしまいます。学んだことをできるだけ多くの人に伝えていくことを大切にしています」(森山夏帆・2年)
大崎高校防災部は今日も、自治体や住民たちと協力しながら地域の防災に目を光らせていることだろう。