厚生労働省の「毎月勤労統計」に端を発した統計不正が、同省の「賃金構造基本統計」、さらに総務省の「小売物価統計」にも拡大。国民生活に密着し、大きな影響のある重要な政府統計の信頼が大きく揺らいでいる。
対象企業を調べず
企業の賃金や労働時間を把握する「毎月勤労統計」では、2004年から対象事業所の一部を調べておらず、平均給与額が実態より低くなっていた。このため、同統計を基に算出する雇用保険や労災保険で過少支給が生じ、受給者2000万人以上に影響した。
訪問すべきなのに郵送
「賃金構造基本統計」は、学歴や雇用形態などの属性別に見た賃金水準を把握するため毎年1回調査しているもので、国が特に重視している「基幹統計」の一つ。都道府県労働局や労働基準監督署が雇用した調査員が企業を訪問して調べることになっているが、実際には十数年前からほとんどの企業に調査票を郵送して済ませていた。
法律違反の疑い
総務省は「統計法(メモ参照)違反の疑いがある」と指摘する。厚労省の組織的な不正隠蔽(いんぺい)の疑いも出ている。
新たに発覚したのは総務省の基幹統計の「小売物価統計」。商品やサービスの価格、家賃、宿泊料を把握するための統計で、日本銀行が金融政策を決める際に重要な判断材料になる。本来は都道府県が任命した調査員が毎月、店舗を訪問して調べるが、大阪府の調査員3人は実際には訪問していないのに価格を報告していた。
「国際的に信頼失う」
総務省は不正調査による各種経済指標への影響について「データ全体のごく一部であり、消費者物価指数などへの影響はない」としている。しかし、エコノミストらからは「日本の経済データに対する国際的信頼を失いかねない大きな問題」との批判が相次いでいる。
【memo】統計法
公的統計は国民の意思決定の基盤となる重要な情報であるという考えから、行政機関などによる作成や提供の基本的事項を定めた法律。総務省が所管する。1947年に制定され、2007年に全面改正された。毎月勤労統計など「基本統計」の実施方法を規定しており、改ざんなどの不正には罰則が科せられる。