高校郷土芸能の東京大会において、王子総合高校の演奏は一種の名物になっている。今年の演目は「王子亭どんどこ みそ汁」。高校和太鼓界の愛されキャラは、どのような演奏を披露したのだろうか。(文・写真 山川俊行)

和太鼓に青春を捧げる高校生たち

和太鼓に魅せられ、演奏技術を磨くべく、日々汗を流す高校生たちがいる。11月25日に開催された「東京高等学校文化祭郷土芸能部門中央大会」の会場となっためぐろパーシモンホール(東京都目黒区)の大ホールには、都内の高校生たちが演奏する創作和太鼓の力強い音が鳴り響いていた。

東京高等学校文化祭の郷土芸能部門は、和太鼓に特化した大会だ

郷土芸能部門の地方大会としては、全国最多の27校が参加した今大会。来年、佐賀県で開催される「第43回全国高等学校総合文化祭2019(さが総文)」の出場権をかけた発表会ということで、各校が熱のこもった演奏を披露する。

 王子亭どんどこのみそ汁?

有り余るエネルギーを、全身全霊で太鼓にぶつける高校生たち。時に笑顔を浮かべながら、自信に満ち溢れた表情でしゃにむに太鼓を打ちならす姿が目に焼き付く。1校の持ち時間は約8分。テンポよく進む演奏に聞き惚れていると、あるアナウンスで会場が一瞬ざわつく。

「次の演目は、都立王子総合高等学校『王子亭どんどこ みそ汁』」

変わった演目名だ。舞台準備の様子を見ていたが、和太鼓の配置には特段変わったところはない。すると太鼓のお囃子とともに、袖のほうから着物を着た女の子が壇上中央に向かって歩いてきて、ちょこんと正座し頭を下げる。そして、キッと顔を上げて正視するやいなや、「えー、たくさんのお運びで!こんな大舞台でやらせてもらうっていうのも久しぶりで!」と落語を始めたのだ。

和太鼓の演奏なのに、落語の高座と化した壇上

1分ほどしゃべった後に、ジャズバンドのリードドラムのような軽やかなリズムで、一台の太鼓が音を奏で始めた。最初は聞こえるか聞こえないかぐらいの音量。しかし次第にその音は大きくなって、会場全体にこだまする。そして、落語家少女の「王子の太鼓はどんな人でも楽しめる、ちょっと変わった太鼓ってことでさ!」という掛け声とともに、10人ほどが一斉に太鼓を打ち始めた。壮観だ。

途中で小噺を挟みながら、演奏が進んでいく。語りが終わると、一気に調子が早くなりクライマックスへ。そして、ぴたりと演奏が止む。一瞬水を打ったように静まり返る会場。直後に盛大な拍手に包まれた。

「おもしろいけど、技術はない」

聞くところによると、王子総合高校は毎年、一風変わった演奏で高校和太鼓界隈の耳目を集めているという。しかし、エンターテインメントに振り切ることだけが、観客が心惹かれる要因ではないはずだ。

「毎年、王子総合っておもしろいけど技術はないねと言われてきました(笑)」

講師の高橋直也さんはカラッとした笑顔でこう明かした。たしかに演奏だけ見れば、上手い高校は他にもあったように思う。

「主役にはなれませんが、それでも観客に“好かれる”演技はしたいんです」。和太鼓部の生徒はその思いで一致していたという。生徒たちは充実した口ぶりで、演奏後の感想を語ってくれた。

「演奏中の語りは、1カ月で合わせにいきました。時間がない中でバタバタしましたが、とりあえず終わってホッとしています」(宮崎紗菜さん・2年)

「なかなかみんなの予定が合わず、週に2日ぐらいしか練習時間がありませんでした。それとは別に個人練習をしてる人もいたり、少ない時間でみんなで力を合わせて頑張りました」(畠山朔弥君・2年)

信じてやり続けること

技術の研鑽だけが、打ち手と聴き手をつなげる手段ではない。自分たちにしかできない表現方法を模索し、その姿を実現するために日々のトレーニングがあるはずだ。目指すスタイルを徹底的に続けることで、聴き手に「あの高校といえば、アレだよね」とパッと思わせる。そういう意味で、王子総合高校が意識して続けてきた演奏スタイルは、東京の高校和太鼓界において一種のブランドとして確立しつつあるのかもしれない。

落語家を演じた山崎みづほさん(3年)は、「主役に据えるには物足りないが、いないと何かそわそわする。私たちの和太鼓部は、そんな定食の“みそ汁”みたいな存在になりたいんです」と人差し指を立てた。

写真左から、畠山朔弥君(2年)、山崎みづほさん(3年)、宮崎紗菜さん(2年)