生命科学をテーマにしたシンポジウム(東京薬科大学主催)が10月20日、東京都内で開かれ、落谷孝広先生(国立がん研究センター主任分野長)が登壇し、これからの科学研究を担う若者にメッセージを送った。 (文・写真 野口涼)

おちや・たかひろ 大阪大学大学院医科学研究科医学博士。2012年から国立がん研究センター分子細胞治療研究分野主任 分野長。

疑問を持って挑もう

落谷先生は3年半ほど前、ライフワークとして30年以上研究に取り組んできた肝臓再生に関する仮説が一瞬にして崩れ去った経験があることを明かした。

その後、自らが主導する研究グループが、新しい学説をもとにヒトの肝臓の細胞を若返らせることに成功したという。「われわれが信じているサイエンスのピースは、意外と簡単にひっくり返ってしまいます。若い皆さんはテキスト(教科書)に書いてあることにも疑問を持ち、それを書き換えることに挑んでほしい」と語り掛けた。

また、マイクロRNAを含むエクソソームという微小物質を調べた結果、1滴の血液から13種類のがんと認知症を早期に発見できるシステムを構築したことを説明した。「今後はがんの予防を目指し、新たな挑戦をしなければならない。物事を常に科学的に見つめ、考え、勇気を持ってチャレンジすることを続けていきたいと思っています」

落谷先生が高校生新聞のインタビューに応じた

英語をしっかり学ぼう

 「観察」が好きで、小学生のころから科学雑誌の付録の簡単な顕微鏡で菌類を観察しては、スケッチしていました。環境によって形を変えたり、栄養状態が悪くなると合体したりする様子が、ロボットアニメのようでもあり、すごいと感じたのです。高校に入ってからも美術部で絵ばかり描いていました。観察や記録は、生物学の基本です。

 生物の中で一番複雑なのは人間の体ということもあり、医学生物学の分野に進みました。高校生は、どんなことにも疑問を持つ「知への欲求」を持ってほしい。世界中の研究者とコミュニケーションをとるために、英語もしっかりと学んでほしい。