近年、全国高校野球選手権の東東京大会で強豪校を何度も打ち破ってきた小山台(東京)硬式野球班。グラウンドが自由に使えないなど環境が恵まれているとはいえない。だが、時間を有効に使い心身を成長させている。 (文・写真 小野哲史)

外野ネットスロー

学校グラウンドでは内野手しかノックをできないため、外野手は送球練習のみ。投げられた小フライを捕ったら、バックホームをイメージしながらネットを目がけて投げ込む。このとき、捕球から送球までのタイムを計測している。

 

一秒も無駄にしない

活動は原則、定時制の授業が始まる午後5時まで。全体でのウオーミングアップは行わず、すぐに練習に入る。しかも週2、3回は、学校のグラウンドを他の班(部活)と半分ずつ使用するため、駐輪場のわずかなスペースも利用する。主軸の会川和希(3年)は「一秒一秒を無駄にせず、キャッチボールの一球にしても試合を想定して行うことを意識している」と話す。

平日の練習は極めて短時間だが、徹底しているのは午後5時以降の過ごし方。「日本一長い自主練」と称し、例えば班長(部長)の渡辺泰輝(3年)は「帰宅してから素振りやダッシュをするのは当たり前。ボールなしで捕球体勢や送球の感覚をつかむ練習などもやっている」という。東海大学の教授から受けたメンタルトレーニング講習で「先生方が見ていないときに手を抜く選手は二流」と学び、自主練にも高い意識で臨んでいる。

3種類の日誌を活用

福嶋正信監督は「1に生活、2に勉強、3に野球」と語り、生活面の充実が学業や野球にもつながると考えている。生活を律するために、野球日誌を活用している。班員同士で回して「コミュニケーションを深める日誌」、各個人が毎日書く「メンタル用」「技術用」の3種類だ。「心という字が入る『日誌』なので、自分と向き合って感じたことも書かないといけない」と渡辺。「これまで2年数カ月、毎日続けてきた日誌を通して心が成長した。野球で苦しい場面やチャンスが来たとき『あれだけやったのだから大丈夫』と思える自信が身に付いた」という。

主将の飯田光塁(3年)は、技術に関して「先生が作るフォームの連続写真を研究し、練習で試すことで、苦手だったバッティングが向上できた」。毎日1ページ、日誌を書くことを続けたおかげで集中力も持続するようになり、競り合いになった試合での終盤の強さは今やチームのお家芸だ。

野球日誌

個人用は毎日、A4のノート1ページいっぱいに練習の反省などを記す。書くためには日頃からさまざまなことにアンテナを張っている必要があり、チームや自分のことを考えるきっかけになる。技術用は打撃や投球フォームを分解し、細かなポイントを確認していく。

 

トスバッティング

狭いスペースの中に多くの班員が並んで行う。とにかく時間がないため、1球ずつ実戦を想定しながら力強くバットを振る。駐輪場で行うときは安全面を配慮し、バドミントンのシャトルをボール代わりに使うこともある。

 

取材日の練習の流れ

*2、3年生は3グループに分かれて30 分間ずつローテーション。1年生は駐輪場で体力づくり。

   15:20
内野シートノック
外野ネットスロー
   15:50
ケージでの打撃練習
他はトスバッティング
   16:20
トスバッティング
投手はブルペンで投球練習
   16:50
片付けて練習終了
 
【TEAM DATA】1946年創部。部員91人(3年生40人、2年生29人、1年生22人)。2014年、選抜大会(センバツ)に21世紀枠で初出場。今年の春季東京大会ベスト8。練習場所は学校グラウンド、駐輪場、多摩川グラウンドなど。土日には遠征して練習試合を行う。休みは不定期で週1日。チーム目標は「日本一いいチーム」。