関本椎菜さん(東京・桜蔭高校3年)は、東日本大震災の記憶を風化させまいと、高校生や大学生で構成する有志団体を昨年立ち上げた。きっかけは宮城県石巻市でのボランティア活動だった。3月に横浜で、震災の語り部を招いた講演会開催を実現させるまでの道のりを聞いた。 (文・写真 中田宗孝)
被災地訪れ衝撃
「……私は間違っていた」。関本さんは昨年8月、東日本大震災の被災地を初めて訪れ、そう痛感した。大学生の姉と一緒に、東北復興を掲げる石巻市でのアートイベントにボランティアとして参加。「街は着々と復興していると思っていましたが、いまだに更地のままの地域が多い。震災の被害に苦しんでいる方も大勢いました」
震災被害を伝える石巻の施設を見学して目にしたのは、震災前の同市の地図に「この道を歩いて学校に通った」「よく行く牛乳屋がここにあった」と書き込んだふせんが貼られた展示物。地元住民が思い出の情景を記したものだった。「普通の日常が壊されてしまったんだ……」と言葉に詰まった。過去の出来事と捉えていた震災が「自分自身のこと」に変わった。
語り部招き講演会
12月、「震災復興支援を図る学生の会」を発足。「被災された方の生の声を一人でも多くの人に届けたい」。思いに共感した同級生や姉、姉の友人ら7人が集まった。関本さんの地元・横浜市で、避難した児童へのいじめが起きていたのを知り、復興支援の講演会を横浜で開催することを目指した。
避難先でいじめに遭ったり、両親を亡くすなど震災で壮絶な体験をした2人の語り部と連絡を取った。会の運営資金はクラウドファンディングを利用して募った。
3月末に講演会が実現。会場には幅広い世代の約60人が集まり、語り部が話す生々しい震災いじめなどの体験談に聞き入った。「語り部の方々の生の声は、報道で見聞きする話とは心への響き方がまったく違うと感じました」(関本さん)。講演終了後、参加者から「家族に会いたくなった」「大切な人と過ごす今が幸せだと気が付いた」との声が寄せられた。会への協力を申し出た同年代の高校生とも出会った。7月に2回目の講演会を開く予定だ。「人と人がつながり、支え合っていく」。震災復興に大切なものを見つけた。