県内屈指の進学校でありながら、春夏通算24度の甲子園出場を誇る今治西(愛媛)野球部。部員の大学進学率は毎年ほぼ100% と、まさに文武両道を実践する。特別なことはせず、徹底した走り込みと試合を想定した緊張感のある練習で、夏の甲子園を目指す。 ( 文・写真 藤川満)
「うちほど走り込むチームはないんじゃないかな」と、大野康哉監督(41)は自信たっぷりに話す。普段の練習はもちろん、練習試合の日には、試合と試合の合間にも10㌔のランニングを行う。特に冬は25㌔のロードワークも加わり、下半身とスタミナの徹底した強化に余念がない。主将の檜垣孝明(3年)=愛媛・今治西中出身=は「夏の大会で最後まで集中力を持続するためにはスタミナが必要なので、走り込みは大切です」と説明する。監督の意図は、部員にもしっかり浸透している。
ランニング後のキャッチボールで大野監督が叫ぶ。「この一球は試合の一球だぞ!」。常に試合を意識した緊張感あふれる投げ合いだ。
この後に続く守備練習で、緊張感はさらに高まる。この日の守備練習では、広い球場を想定し、部員がファウルラインのギリギリの打球を全力疾走で追っていた。内野の守備練習では、けん制球を投げる投手との連携を確認する。途中でミスがあると、反省の意味を込めて、すぐさまグラウンドを1周走る。いかなる時も、走り込みを欠かすことはない。
シートノックでは、1死一、二塁を想定した場面を繰り返す。時には、走者が守備陣に挟まれた状況をつくり、対応力を磨く。「試合中に起こる状況を確認して、不安をなくすのが狙い」(大野監督)
順番を待つ走者役の部員にも、監督がげきを飛ばす。「グラウンド外でも、試合のつもりで一球に集中する」。監督が部員に繰り返し伝えていた。
授業が7限目まであるため、練習開始は17時からと遅い。平日はほぼ毎日22時ごろまで練習をして、その後に学習塾へ通う生徒も多い。「練習と勉強の両立は大変ですが、甲子園出場のことを考えたら頑張れる」と中西雄大(3年)=同・桜井中出身。「苦しいことから逃げずに、果敢に挑戦する」。実は、この姿勢も強さの秘密の一つかもしれない。
約60 人の部員がいるので、守備練習に参加できる人数は限られます。参加しない部員には、ただ見ているのではなく、自分も守備をしているつもりで集中するよう指導しています。部員全員が、一体感を持って練習に取り組むことが大切と考えているからです。
練習中は、できるだけ全員に声を掛けています。試合に出られない部員の存在も、しっかり認めてあげたい。そのおかげか、退部者がほとんどいないのが自慢です。戦力が低下することもないので、安定したチーム力を保つことができています。
走り込みと実戦形式を取り入れた練習が主です。下半身の強化は、良いパフォーマンスにつながります。また、苦しい経験をすることで、メンタルも鍛えられ、自信が生まれます。実戦形式の練習には、部員が不安に思っているプレーや状況を確認する意味もあります。特に試合前は「頻度は低いが、起こりうる状況」を想定した守備練習に時間を割きます。
練習で一つのプレーができるようになるまでと、そのプレーが試合でできるようになるまでは、同じくらい時間がかかります。ならば、練習から試合の緊張感を持って取り組めば効率が良いはずです。だから部員には「練習は試合のように。試合は練習のように」と、常に言い聞かせています。