日本で女性の活躍が遅れているのはなぜか。こんな疑問を出発点に、高校生と社会人が「日本の未来」を考える公開授業が、田園調布雙葉高校(東京)で3月に開かれた。講師は、生命保険会社を創業した後に大学の学長に転じた出口治明さん。豊富な読書や旅行、ビジネスの経験に裏打ちされた授業に刺激を受けた高校生が、社会人と語り合った。 (文・写真 西健太郎)
日本は世界で114位
公開授業に集まったのは、田園調布雙葉高校と、郁文館グローバル高校、かえつ有明高校(いずれも東京)の2・3年生(当時)計30人。さらに、担当の小林潤一郎先生(情報)の呼び掛けに応じた社会人86人。事前に、出口さんの著書「日本の未来を考えよう」
を読んで参加した。
「女性の地位は、世界で1 1 4位」。出口さんは、こんな国際調査の結果から「女性の活躍」について語り始めた。著書によれば、日本は政治家や企業の重役の女性比率の低さが際立つという。
経済の変化に対応できず
なぜ日本は「女性の活躍」が遅れているのか。出口さんが考えるキーワードは「生産性」だ。
「戦後の日本は高度成長してきた。知っていますね」。うなずく生徒たち。「自動車やウォークマンを作って、日本は豊かになった。(製造業の)トヨタやソニーが国を引っ張ってきた時代は、力のある男性が長時間働いた方がうまくいっていた。お父さんは家で
は『飯・風呂・寝る』と言うだけの生活で、お母さんはそのケアをしていた方が社会の生産性が高かった」
しかし、時代は変わった。「製造業のウエートは減って、ほとんどはサービス産業」。サービス業の消費者、つまりお客は女性が中心という。「今も日本経済を支えているのは、おじさんです。女性の消費者が欲しがるものが分かりますか」。このままでは、日本企業は消費者に合ったサービスを提供できない。「女性が頑張らないと生産性が伸びないのです」
制度変えれば意識も変わる
出口さんの話を受け、高校生と社会人は班をつくって「日本で女性の活躍の場を多くする方法」を議論。各班の高校生が、その内容を発表した。「社会で子どもを育てる意識を持つ。高齢者に子どもを育ててもらう」「性別のくくりで人を見ない。学校でジェンダーの授業をする」「保育所を増やし、駅の近くに開設する」「企業の人事部を男女同数にする」「女性が育児や介護をする、という意識を変える」
発表を受けて出口さんはこう語った。「『意識や文化を変えるのは制度』というのが社会学の結論です。意識を変えるのは大事だが、制度を変えた方が、インパクトが大きい」。選挙の候補者を男女同数にすることなどを法律で義務付けたフランスの事例などを挙げた。
授業の後半は「国際社会で薄れゆく日本の存在感」をテーマに、高校生と社会人が語り合った。
出口さんは「未来は、皆さんがどう行動するかに懸かっている。みんなが行動すれば世界は変わる。でも、腹落ち(納得)しないと行動できない。そのためには勉強です」と、生徒に呼び掛けていた。
- 【でぐち・はるあき】 1948年生まれ。京都大卒。日本生命勤務を経て、インターネット生命保険会社「ライフネット生命」を創業。同社社長、会長を経て2018年1月から立命館アジア太平洋大学学長に就任。歴史やビジネスなどに関する著書が多数。