千葉・市川高校の2年生3人が、棚田用の稲刈り機を考案した。地域活性化や社会課題の解決を目指す「高校生ビジネスプラン・グランプリ」(日本政策金融公庫主催)で、3247件の中からグランプリに選ばれた。(文・写真 野口涼)
「農業の衰退を何とかしたい」同級生とチーム結成
起業で社会を変えるのが夢という余田大輝君。2017年3月頃、「高校生ビジネスプラングランプリ」のためのアイデアを探しているとき目にとまったのが「棚田」に関するネットニュースだった。「傾斜地にある棚田は農作業の自動化が難しく、普通の田んぼの4倍の速度で衰退しています。傾斜地にある棚田でも効率よく収穫ができる自動稲刈り機を開発すれば、農業の活性化に一役買えるのではないかと考えました」
だが、余田君はものづくりは苦手分野だった。そこで声をかけたのが1年生のときにクラスメートだった2人。CGデザインや動画編集が得意な島田恵佑君と、機械工作やプログラミングが得意な加藤泰成君だ。もともと農業の衰退に問題意識を持っていた島田君はもちろん、「起業ってなに? なんで俺に?」と思ったという加藤君も、余田君の熱意に動かされた。「これまで趣味でやってきたことが社会の役に立つ可能性があるなら、挑戦してみたいと思いました」
弥生時代の「穂首刈り」からアイデア
3人が考えたのは、弥生時代の「稲首刈り」を応用した稲刈り機だ。棚田用に小型化するため、稲穂だけを刈り取るためのプログラムを加藤君が、本体のデザインを島田君が担当。できあがったCGを地元千葉県の棚田農家に見せて、「発想は面白いが、実際には稲穂以外の部分も一緒に刈り取ってしまうのではないか」と意見をもらった。
試行錯誤の末、稲刈り機本体に稲を通し、刃の構造を変えることで、稲穂だけを刈り取れるよう改良。9月に稲刈り機「弥生」の両手に乗る位の試作1号機が形になった。
農家や企業を訪問、アドバイス求める
実物の3分の1スケールとなる試作2号機の製作と並行し、12月に入ると東京ビッグサイトで開催された「エコプロダクツ展」(環境配慮型製品・サービスの一般向け展示会)やリコーの研究開発本部を訪問。リコーでは動力の確保や安全面の基準などについて具体的なアドバイスをもらった。また、日本航空を訪ね、ブランド化した棚田米を機内食に採用してもらうプランについて相談。「『事業化したらまた来てほしい』と、よい反応をもらえました」(余田君)
社会の第一線にいる大人が自分たちのプランに興味を持ち、評価してくれたことは、3人にとって大きな自信になった。「現場に足を運び、人と対話することで得られる情報量は、教科書やインターネットとは比べものにならない。実際に見ること、話を聞くことの大切さも学ぶことができました」(島田君)
起業の夢が現実に近づいた
こうして迎えた1月7日の最終審査会では、ほぼ満場一致でグランプリを受賞。農家や企業などにヒアリングしたこと、実現の可能性が高いこと、そして3人の役割分担がチームとしてよく機能していたことなどが評価された。
「グランプリを獲得し、起業という遠い夢が現実的なものになった」と言う余田君を中心に、3人は「高校生の今だからこそできることがあるはず」と活動を継続。農業活性化のための具体的なプランをリストアップしているところだ。卒業後はそれぞれの進路で得意分野を磨き、3人で起業を目指す。「今回のチャレンジで、自分の未来につづく新しい道が開けました」(加藤君)