大阪大、京都大の入学試験の出題ミスが発覚したことを受けて、大学に入試の解答例の公開を求める声が出ていることについて、東京大は2月7日、「開示をするつもりは全くない」と実施に否定的な考えを示した。多様な解答方法が存在する記述式の試験で、受験生に「解答は1つ」と捉えられてしまうことを恐れているという。(西健太郎)
大学入試をめぐっては、林文部科学大臣が、解答例の開示がミスをなくすことにつながる、との考えを示している。文科省の大学入学者選抜実施要項は「標準的な解答例や出題意図」の開示に努めるよう各大学に促しているが、開示は義務ではない。読売新聞の2月4日の報道によると、2017年度入試で正解や解答例を非公表とした国立大学は全体の4割超の36校だったという。
1つの解答を覚えるのは「知能発達によくない」
東大の一般入試は、どの科目も記述式で解答する問題が多くを占める。大学側は問題を公表しているが、解答例や個別の問題の出題意図を明らかにしていない。東大の福田裕穂理事・副学長(入試担当)は7日、推薦入試合格者の記者発表の場で一般入試の解答の開示について考えを問われ「今のところ全くやるつもりはない」と明言し、次のように話した。「解答は1つでないことがいっぱいある。我々が知りたいのは(解答を導くまでの)プロセス。解答が3つ、4つあってもいいときに、(解答例を示すことで)1つだけが解答と捉えられてしまうことを非常に恐れている。世の中は解がないことが圧倒的に多い。プロセスが一番大事で、これが解だと言って、解を覚えてしまうのは知能発達によくないのではないか。東京大学の入学試験は一つの解に向かってみんなが同じ道を通るのではなく、それぞれが多様なプロセスをもって、そこに至る道を丁寧に判断する。今の時点で解を公表するのは東京大学の入試にとってはふさわしくない」
「受験者へのメッセージ」伝える方法は検討
一方で、他大学の入試ミスについて「大学の中で入試に対してちょっとゆるみがあった可能性がなくはない。東京大学が完全にフリーではないかもしれない。入試のプロセスの見直しはしないといけない」と、入試実施体制などを検証する考えを示した。
また、「(解答例の開示や入試ミスの通報窓口について)文科省から一切情報はない」としたうえで、「(解答例を)開示をするつもりは全くないが、文科省というより受験者目線になったとき、東大の入試に関するメッセージが伝わることはあるかもしれない。こうした(入試ミスの)問題が起きたことを他山の石として入試について考え直すことはしていきたい」と解答例以外の開示については含みをもたせた。「世界標準で考えたい」と、ケンブリッジ大やハーバード大など海外大学の事例の調査を進めているという。
東大は「記述式は受験生との対話」(五神真総長)と位置づけ、入試の採点現場では一定の採点基準を事前に設けながらも、受験生の実際の解答を見ながら採点基準を洗練させていくプロセスをとっているとされる。