穏やかで温かな雰囲気を持つ顧問の小野瀨照夫先生

埼玉県立浦和高校のグリークラブは2017年10月の全日本合唱コンクール全国大会で初の金賞と文部科学大臣賞を受賞した。「僕たちがここまで来れたのは先生がいたから」と、部員から絶対的な信頼を寄せられている顧問の小野瀨照夫先生に、男声合唱の魅力や指導方針について聞いた。(文・小野哲史、写真・幡原裕治)

どんな舞台でも良い演奏を

――グリークラブとして一番大きな目標は、全日本合唱コンクールになるのでしょうか?

必ずしもコンクールだけを目標にしてはいません。コンクールのみでやっていくと、部活動のあり方が変わってしまうからです。地元でのボランティア演奏とか誰かの出身中学に呼ばれて歌うとか、どんな舞台でもとにかく良い演奏をすることをもっとも心がけています。

倍音が多い 深みあるサウンドが魅力

――男声合唱の魅力はどこにあるとお考えですか?

サウンドの深みは女子には出せないものです。男子の声は倍音(基音の振動数の整数倍の振動数をもつ音)が多いので、それがキラキラ感になる。女子はもともとキラキラした声を出しますが、男子は低い声を出していながら、たっぷりした倍音の響きの豊かさがありますね。

ただ、男子は女子のように音程や音色を合わせやすくないので、女子より基礎的なトレーニングは必要です。ウチの場合は、中学まで運動部に所属していた生徒が多く、身体が強い。音楽のことはよく知らなくても、基礎的なものを身につけた状態で入ってきてくれるから鍛えがいがあります。

「青空に一本、飛行機雲」 生徒がイメージを持てるように

――指導ではどんなことを心がけていますか?

練習は生徒が自分たちでやるのが基本です。私は必要があれば出ていくという感じで、しゃしゃり出ないようにして、生徒から「先生、見てください。お願いします」と言われるのを待っています。

ただ、全日本合唱コンクールで歌う曲を他の舞台で披露した際、「音楽の作りが子供だね」と指摘され、「大人の音楽」が必要だと考えました。そこで、たとえば四分音符と四分音符の間をどう歌うかまで徹底的にこだわりました。その部分で私は声を膨らませたかったので、黒板に地球を示す丸を書き、地球を囲むような大きな楕円を彗星の軌道として、私が彗星の軌道をなぞる。地球に近づいたら「フォルテ(強く)」で歌い、遠ざかったら「ピアノ(弱く)」で歌うようにさせました。それによって声の柔軟性を作ったらうまくいきました。

高校生ぐらいのレベルですと、イメージが頭にないと、なかなかうまく歌えません。だから合唱の指導は「たとえ」が多い。テノールの高い音がポーンと行くときは「青空に1本、飛行機雲が伸びているように歌って」とか、ソロの部分では「お坊さんのお経のように歌いなさい」などとアドバイスしました。

1~3年生が集合。中央で金メダルを首にかけているのが小野瀨照夫先生