島原高校(長崎県)合唱部は100人の大混声合唱団。全校生徒の7人に1人が合唱部員という人気部活だ。全日本合唱コンクール県大会、全国高校総合文化祭が開かれる「合唱の夏」へ向けて歌声も心も響き合っている。
(文・写真 南隆洋)
♪くらげは海の月、ひとでは海の星〜
6月半ばの午後、音楽室から柔らかな歌声が響きわたっていた。
混声合唱組曲「水のいのち」(高野喜久雄作詩、高田三郎作曲)から「海よ」。壮大な海のドラマのクライマックス。澄んだ女声と重厚な男声が溶け合い、すべてをのみ込み天に昇ってゆく海の巨大なエネルギーが、100人の若々しい声で表現されていた。全日本合唱コンクールの自由曲に選んだ混声4部の最終章7分だ。
全国高校総合文化祭で披露する「知覧節」「島原の子守唄」と並行して練習を進めている。
みんなでつくる
顧問の城田紗希先生は合唱部の卒業生で、今年4月に教師として戻ってきた。伴奏のピアニスト前田ゆりのさんも、5年前に同校を卒業。8月に自分のリサイタルを控えながらも、「合唱部大好き。後輩と一緒に音楽室の空気に触れてうれしい。わくわくしています」と笑顔。この日はOBの元顧問も駆けつけた。島原高校合唱部を愛する人たちに囲まれての、「特訓」だ。
「言葉にエネルギーを。心を声に乗せて〜」「縦の線をしっかり合わせよう」。先生の言葉が飛ぶたびに、部員たちは楽譜に書き込む。
練習1時間 全員舞台へ
県内有数の進学校。日常の全員での練習時間は放課後1時間。あとは自由。勉強、ピアノやソロ、パート練習、腹筋トレーニングなど思い思いに過ごす。「個人の時間を大切にする」伝統が部の人気の秘密だ。
コンクール出演者を選ぶオーディションはしない。部員全員が一緒に舞台に立つ原則を貫き通す。部員たちの最大の喜びはコンクールで勝つことよりも、卒業直前の3月末の定期演奏会で共に難曲を歌うことだ。1990年以来連続26回を数え、著名なプロも共演する。今年はバッハの名曲(20分)など20曲を2時間にわたり披露。島原文化会館を埋めた1200人を魅了した。
異なる色を大切に
校内でイタリア歌曲などを歌うソロ発表会もあり、顧問はそのための個人レッスンにも熱を入れる。「一人ずつの自然な声、違った色を大切にして一色にしない」。異なる個性がパート練習で高め合い、その歌唱力の総和が「合唱」となる。
中学時代はバスケット部のベース(バス)井村恒太郎部長(3年)は「パートの連携がいい。本番はあっという間で、ずっとスポットライトを浴び続けたい気持ちになります」。バレー部だったアルトの喜多夏望副部長は「元気のない人や欠席した人に声をかけて、みんなで『海』を」と思いをかける。短い時間の積み重ねが「感動の3年間」を生んでいる。
- 【TEAM DATA】
- 部員100人(3年生21人、2年生43人、1年生36人)。ベース15、テノール9、アルト37、ソプラノ39人で、それぞれをパート長がまとめる。中学時代は運動部経験者が多い。九州合唱コンクールで一昨年銀賞、昨年銅賞。全国高校総合文化祭出場は今年で4度目。昨年の「長崎がんばらんば国体」には式典合唱隊として参加した。