大妻中野中学校・高校(東京)合唱部は、今年度の「第89回NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)」で中高ともに1位にあたる「金賞」を受賞した。文武両道を掲げる中高一貫の女子校としても名高い同校で、最大の部員数を誇る同部の強さの秘密に迫った。(文・久保陽子、写真・椎木里咲)

学業も部活も全力で

スッ、と顧問の石山明先生が上げた指先に、部員たちの意識が集中する。全員の気持ちが重なり合った瞬間、音楽室の高い天井までハーモニーで満たされていく。

部活動は放課後の約2時間。限られた時間の中で音に集中する

同校合唱部は中学生110人、高校生75人が在籍する大所帯。ほぼすべての生徒が中学での入部後、足掛け5年間の合唱部生活を過ごすという。

高校では3年になると受験が控えるため、2年時の秋の舞台を終えると普段の練習にはほとんど参加しなくなる。学内演奏会やコンクールでの演奏はあるが、あくまでも部活動の中心となるのは新2年と同1年だ。

部員を指導する顧問の石山明先生

試験前になるとすべての部活動がストップするため、コンクールのある時期は、生徒たちもあせりを感じるそう。「優先順位はまず勉強と授業、部活はその次です。赤点だと舞台には出られません。家族や担任が部活動を応援してくれるためにも、成績はキープするよう指導しています」と顧問の石山先生はキッパリ。

独自の「師弟子制度」で後輩をサポート

同部には「師弟子制度」という独特のシステムがある。中1には中3、中2には高1と、先輩が2年下の後輩のメンター役として歌の指導や相談に乗るなど、1対1のサポートを行う。

どの後輩にどの先輩をマッチングさせるのか、それを選ぶのは石山先生だ。「勘の部分もありますが、生徒一人ひとりの声や個性を見つめ、一番合うと思った子を組ませています」(石山先生)

コロナ禍を工夫で乗り越え

今の部員たちは、まさにコロナ禍真っ最中に部活生活を送ってきた。その間には部活動はおろか、コンクールも中止になるなどさまざまなダメージが同部にも影を落とした。

「みんなで集まって練習できないことが不安で……。そんなとき、石山先生がZoomでのオンライン練習を提案してくれたんです。何もできないときだからこそ、工夫してやってみよう!って。本当に心強かったです」と、部長の鶴田若奈さん(2年)は振り返る。

部長の鶴田若奈さん(左)とパートリーダーの川上心さん(右)

コンクールではコロナ禍ならではの工夫も。マスクの内側にフレームをつけ、マスク自体も医療用の透明テープで肌に留めた。そうすることでマスクに空間を作って歌いやすくし、ずれを防いで歌に集中できるようにした。「当時は、もしも中止になったコンクールに出られていたらと思うこともありました。でも工夫を重ねて結果的に金賞を受賞し、達成感を感じることができました」(鶴田さん)

基礎の発声、礼儀作法をていねいに

コンクール常連校として最も大切にしているのは「言葉を伝えること」。初代顧問によって歌詞がつけられた声だしのメロディーは、発声の時点から言葉を意識するよう今も歌い継がれている。

「言葉を伝えるため重要になるのが、基礎の発声や礼儀作法です。あいさつをはじめとした礼儀を大切にすることで、部員同士の絆が深まるなど、さまざまな効果があります。発声を強化する練習では、卒業したあこがれの先輩たちがコーチとして来てくれることも。その存在はとても大きいです!」と、パートリーダーの川上心さん(2年)はほほえむ。

今年度を最後に、鶴田さんと川上さんは第一線から退く。「次の世代には受賞後のプレッシャーがかかると思いますが、それに負けず、元気と強さで楽しみながら部活という青春を謳歌(おうか)してほしいですね」と、後輩たちに思いを託した。

大妻中野中学校・高校合唱部

1976年創部。高校の部員は75人(各学年25人ずつ)。「第88回NHK全国学校音楽コンクール」全国大会銀賞・文部科学大臣賞受賞のほか「第74回全日本合唱コンクール」東京都大会で金賞を受賞するなど、全国屈指の女声合唱強豪校として名をはせている。

学年ごとにスローガン設定

モットーは「ライバルは昨日の自分」「日本一になれ!とは言わない。日本一の努力をしよう!!」。そのほか学年ごとのスローガンもあり、現2年はあこがれの先輩たちと同じ「Amat victoria curam.(勝利は努力するものを愛する)」をテーマにしている。

中高合同でパート練習

平日は放課後の午後4時からスタートし、中学生は午後5時半まで、高校生は午後6時まで練習が許可されている。練習場所は大人数のため、中高合同のパート練習などは音楽室のほか、通常の教室に分かれて行う。ほかの部も利用するため、スケジュールによっては教室が埋まってしまうことも。

部員同士の心をつなぐ工夫

■メッセージ入り千羽鶴に思いを込めて

 鶴田さんオリジナルの千羽鶴は、すべて彼女の手作り。1学年ぶんの25羽を折り、手書きのメッセージをつけて渡した。みんなで制服に忍ばせ、お守り替わりにして舞台に立ったそう。

鶴田さん自らが作り、部員に渡した千羽鶴

■舞台前は全員の手のひらにメッセージ

コンクール当日は自分たちのスローガンを油性ペンで手に書いて。緊張がやわらぐという。後日、コンクールの後にうっすら残る文字を見て、そのときの様子を思い出すことも。

手のひらには自分たちのスローガンなどを書き込んだ(学校提供)

■受け継がれてきたぬいぐるみ

「たろう」「こたろう」「にゃんのすけ」の3匹は、いつもみんなを見守ってくれる存在でみんなのラッキーマスコット。コロナ禍のコンクールでは持ち込み制限があったため連れていけず、今年ようやくNコンの会場に座らせることができた。3匹の見守る中、見事金賞を受賞!

2004年から代々受け継がれてきたぬいぐるみたち

■LINEグループにやる気UPのメッセージ

 高校生部員はグループLINEで部活のある日や部活後にリーダーからメッセージが送られてくる。コンクール前には「あと◯日!」とカウントダウンが始まり、それを見てやる気が出るという。