昨年さまざまな合唱コンクールで上位に入賞した清泉女学院高校(神奈川)音楽部。「良い耳」を作ることに重きを置き、週5日の練習に励む。ただハモるだけではない、伝統の「清泉サウンド」を響かせる強さの秘密に迫った。(文・黒澤真紀、写真・椎木里咲)
何でも言い合える雰囲気づくり
同部の魅力は、凛として透き通った「清泉サウンド」だ。単に声量や強弱の技術にとどまらず、曲の解釈や言葉の意味にも重点を置き、聴衆に感情を伝えることを意識している。
「部員同士の絆の強さが合唱の質に反映されるので、メンバー間の仲の良さを重視しています」と、部長の池田寧音(ねね)さん(2年)は話す。部長として全員の意見に耳を傾けることを大切にしていて、「話し好きな子もいれば、控え目でなかなか本音が言えない子もいます。多数派の意見はもちろん、少数派の意見もしっかり聞いて、なんでも言い合える雰囲気を作るようにしています」(池田さん)
本番は「誇り持ち全力尽くす」
副部長の清水史奈さん(2年)は、「週5日の練習に加え、コンクールや海外遠征など、クラスメートよりも一緒にいる時間は長いんです」と言う。同学年はもちろん、先輩・後輩との絆も強いという。この強い結びつきこそが彼女たちの歌声に温かみと調和をもたらし、聴衆にもその絆が感じられるような感動的なパフォーマンスを生み出している。
本番前は、全員で円陣を組んで一体感を高める。「コンクールは何度経験しても緊張しますが、気負わないように、自分たちに誇りを持って全力を尽くすだけです」(清水さん)
独自の体操や筋トレも実践
強さの秘密は、週5日の練習のメニューにもある。朝練は7時45分から8時25分。発声練習やパート練習はもちろん、独自の体操や筋トレといったトレーニングも取り入れている。
放課後練習は16時から17時45分。ソプラノ1、2とアルト1、2の4パートに分かれてパートリーダーを中心に前日の課題をクリアしていくほか、顧問の佐藤美紀子先生の指揮のもと、全員で合唱をして練習を重ねる。
「良い耳」を作る
佐藤先生は「単にハモれば良いわけではありません。良い音を響かせるには良い耳を作ることが大切」だという。
練習責任者の﨑村優奈(ゆな)さん(2年)は、「全体練習で佐藤先生に指摘されたことを次回までに改善できるように、パソコンやICレコーダーで自分たちの声を録音し、それを聞きながらどこができていないかをチェックしています」と話す。
「例えば、息継ぎの位置をそれぞれずらす『カンニングブレス』の練習です。演奏中の呼吸が自然にできると、歌の流れを妨げることなく表現力豊かな仕上がりになるんです」(﨑村さん)。この細かな努力の積み重ねが、「清泉サウンド」の質を高めてきた。
パートの変更も柔軟に
豊かなハーモニーを表現するには、パートごとの人数を調整しなければならない。そのため、全体練習で音が足りないパートがあれば、別のパートからうつる部員が出ることもある。
「誰がどんな音を出しているのか、なるべく全員把握している」と話す﨑村さんは一人ひとりの歌いやすさをふまえ、多彩な音色を生み出せるようにステージ上での部員の位置を考えているという。
佐藤先生自身も同校の卒業生で音楽部に所属していた。教師として、音楽部を指導して25年になる。「清泉サウンドはピッチがそろった純度の高いハーモニーです。生徒たちには、隣の人の息遣いを聞きながら、未来に向かう凛とした姿勢を忘れずに取り組んでほしいと思います」
現在、部員たちは3月に行われる大会と定期公演で「清泉サウンド」を披露するために、一丸となって練習に励んでいる。
-
清泉女学院高校音楽部
1948年聖歌隊として発足。高校の部員は43人(1年生17人、2年生17人、3年生9人)。2023年は第76回全日本合唱コンクール全国大会高校A部門で金賞・文部科学大臣賞受賞のほか、第90回全国学校音楽コンクール全国大会(Nコン)で3位入賞。大会以外にも海外合唱団とのジョイントコンサートや教会でのチャリティーコンサートを開催するなど、精力的に活動している。一緒に練習している付属の中学校も全日本合唱コンクールで金賞・文部科学賞を受賞している。