坂出高校(香川)合唱部は、「NHK全国学校音楽コンクール」(Nコン)や「全日本合唱コンクール」など、多くのコンクールで常に上位入賞を果たしている強豪だ。何を意識し、どんな練習をしているのか、強さの秘密に迫った。(文・写真 久保陽子)
体操や発声など基礎練習で発声をそろえる
以前は部員のほとんどが音楽科の女子生徒たちで構成されていたが、今では普通科の生徒が大半を占めている。現在は総勢46人で、音楽科の生徒は12人ほどだ。

さらに各科1人ずつ男子生徒が在籍しているが、コンクール時は女声パートに交じって高い声で参加するなど、部員全員が一つになり目標に向かっている。
【1日のスケジュール】放課後の「短期集中」で練習
二つの学科は試験の予定や修学旅行などの日程も異なるため、勢ぞろいして練習に臨む日は限られている。そのため、心がけているのが「短期集中練習」だ。
練習時間は1日2時間弱程度の練習で、ポイントを押さえて取り組む。朝練も昼練習もなく、土曜日は午前中のみ練習している。
-
<ある日のスケジュール>
15時30分 授業終了
15時40分 部活開始
15時40分~16時 筋トレと発声は各5~6分。20分程度でウオーミングアップ完了
16時~17時 パート練習。さまざまなアプローチでハーモニーを確実なものにする
17時~17時30分 全体で合わせ
17時30分 部活終了
【練習内容】意見が食い違ったら話し合い
普段の練習では、ハーモニーの重なりをより意識できる練習を行う。パートに関係なく並ぶ位置を変えて歌う「シャッフル練習」のほか、学年ごとにそれぞれ歌ったり、パートリーダーを入れ替えて新しい視点で注意点を共有したりする。
部長の堀家実月(ほりけ・みつき)さんは、「基本的に縦横(先輩後輩、同期)の垣根のないチームですが、たまにリーダー同士で意見が食い違うことも。そんなときは初心に戻って『どういう音楽がやりたいか』を話し合い、互いに方針を譲り合います」と語る。長年担当していた前顧問の勇退に伴い、顧問に就任して2年目の斎藤愛(さいとう・めぐみ)先生は、そんな生徒のやり取りを見て、「みんな大人だな、と感心しています」と話す。
【大会に向けた流れ】合宿で集中練習
4月、Nコンの課題曲が発表されるが、音楽科の海外遠征があるため、全員がそろうのは翌月になってから。そのため、5月には学校に宿泊して共に生活し、集中して歌う合宿が毎年行われている。
普通科の合唱経験者は、1学年で3~4人と少ない。堀家さんは「入学時は、普通科も音楽科もレベルがばらばら。合宿を通して目指す声のイメージを統一し、技術力を高めながら部員同士の親睦をはかります」と、合宿の効果を語る。
大会メンバーが発表されるのは、なんと本番1週間前。ギリギリに発表するのは、全員のモチベーション維持のためだ。「本当は全員出場できたらいいのですが、人数制限があるので悩ましいところです。全員が各大会に参加できるよう、チーム編成を行います」(斎藤先生)
-
<Nコンに向けた流れ>
4月 課題曲と自由曲を決定し、部員に発表して練習スタート
5月 合宿中に初めての合わせを行う
6~7月 合わせの時間を多く取り入れつつ、パート練習などを行う
8月 大会1週間前に出場メンバーやローテーションメンバーを発表
【年間スケジュール】1年間で30曲に取り組む
訪問演奏やイベント出演も積極的に行い、1年間を通して約30曲に取り組む。
「年間を通して演奏回数は多い方だと思います。大変ですが、舞台慣れできるという大きなメリットもありますね。コンクール以外のイベントは生徒主体で曲を決めるなど、楽しいプログラムが中心。生徒たちにとっては息抜きになっているようです」(斎藤先生)
入学式恒例の演奏会では、代々「瑠璃色の地球」が歌い継がれている。最近では合唱に合わせて書道部による歌詞の筆文字や、写真部の自然物の写真がスクリーンに映されて壮大な舞台で披露する。それを見たことがきっかけで入部する生徒も少なくないそうだ。

7月の大会前には「スイカパーティー」を行う。前任の前田朋紀先生の代から20年以上続くイベントで、顧問が果物屋で購入したスイカをパート別に割るものだ。大きな包丁で割ったスイカは、一番距離が近いパートから優先的においしい部位を食べられ、盛り上がるイベントだ。
-
<年間スケジュール>
4月 新入生歓迎演奏・新入生歓迎パーティー
5月 合宿
7月 合唱講習会(香川県合唱連盟主催)
8月 Nコン県大会・四国大会、全日本音楽コンクール県大会・四国大会
9月 定期演奏会
10月 Nコン、全日本合唱コンクールの全国大会
11月 県内の高校生たちが参加する「合唱の祭典」(香川県高文連主催)
12月 商業施設などのクリスマスコンサートに出演。冬の合唱祭に参加。クリスマスパーティー
2月 香川ヴォーカルアンサンブルコンテスト
3月 声楽アンサンブルコンテスト全国大会に出演。卒業パーティー
※2024年度の活動をもとに作成
【上達のコツ】「根気」と「努力」で勝ち抜く
大会前、伝統のジンクスがある。「歴代部長の掛け声に合わせて表情を変え、学年やパートを問わず隣にいる部員の肩たたきをします。肩の力を抜いてから舞台に立つのがルーティーンです」(堀家さん)
堀家さんに「部長としてコンクールを勝ち抜いていくために必要なもの」を尋ねると、「根気です」ときっぱり。「努力も声だしも根気が必要です。そして必ず、みんなで団結することが大切。少しでも気持ちにほころびがあると、それはもう合唱ではなくなります」

ヒントは楽譜の中にある
斎藤先生も「生徒たちが、自分たちの『音楽が好き!』という気持ちを聞いてくれる人々に伝えていってほしいです。なぜ自分が合唱部に入ったのか、その気持ちを忘れずにいてくれれば」と、一瞬生徒に戻ったかのような笑顔を見せた。
まだまだ手探りの中、ハーモニーという海原に船出した新生・坂出高校合唱部。堀家さんは「そのヒントは楽譜の中にあります。それを読み取り表現するのは難しいですが、成し遂げてこそ坂高合唱部です!」と、伝統を背負う気概をその瞳にのぞかせた。
-
坂出高校合唱部
坂出高校合唱部。練習は普段から、音楽科が授業や演奏会で使用する音楽ホールを利用。毎日がステージの経験へとつながっていく1950年創部。部員46人(3年生17人、2年生12人、1年生17人)。NHK全国学校音楽コンクールや全日本合唱コンクールなどで全国大会に多数出場。「歌は心」をモットーに、曲によって異なる心の表現を透明感のある歌声で聴衆に伝えることをめざす。