今年7月、ドイツで主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開かれたのにあわせて、世界の高校生から選ばれた20人が集まって「世界の安定と持続可能な社会の実現」をテーマに議論を重ね、その内容を若者世代から世界の首脳たちへの20の質問としてまとめた。日本から唯一参加した高校生記者の岡田悠也君(高校3年)に会議の内容を報告してもらった。
サミットにあわせ高校生が「世界の安定」など議論
突然ですが、みなさんはG20を知っていますか?
G20は先進国に新興国を加えた主要20カ国・地域と世界銀行や国際通貨基金などが構成しているグループです。G20サミットは財務大臣・中央銀行総裁会議を起源とし、正式名称は金融・世界経済に関する首脳会合です。今年はドイツのハンブルクという港湾都市で開かれました。
今回、G20サミットの関連行事として、世界の高校生が議論をかわす「G20 Global Classroom」が開かれました。集まったのは、「G20ファイナンストラック国際コンテスト」という論文、ビデオ、ポスターの各コンテストを勝ち上がった20人の高校生です。今回のコンテストには応募総数約800件と、多くの応募が世界中からありました。20人の出身国は、カナダ、スペイン、アルゼンチン、ベルギー、中華人民共和国、ブラジル、メキシコ、日本、ロシア、ドイツ、トルコ、イギリス、インドネシアの13カ国です。
今回、私は同級生の荒木伸一君と執筆した共著論文「保護主義と自由貿易をめぐる地球規模課題と地球規模的解決策」をドイツ連邦財務省の官僚の方々に高く評価していただき、G20 Global Classroomに参加することができました。
参加した高校生のレベルは想像以上に高く、16歳にして5カ国語を話せてしまう生徒や国内の経済コンテストで高い評価を受けている生徒など、とても優秀な人材が多いという印象を受けました。
参加した20人の高校生は、世界の安定と持続可能な社会の実現に向けてコミュニケと呼ばれる合意文書の採択を目指して議論を交わしました。
最終的にG20各国の首脳や国際機関へ若者世代の代表からの質問をまとめるという形で20項目の質問を決定し、その質問を投げ掛けるということを合意しました。
政治家の汚職、為替操作…国により高校生の問題意識にも違い
議論の中では、各国によって抱える問題の違いと、各国共通の問題だったとしても、国によって、その問題に対する深刻さが違うということが表面化しました。
例えば、今回のコミュニケでの質問は20項目しか盛り込めないということでしたので、この中に何のテーマを入れるのかというところで、議論が盛んになりました。中南米のメキシコやアルゼンチン、ブラジルから来た高校生は政治家の汚職を止めさせるためにG20はどう働くべきかという視点の質問を多く取り入れたいという主張を展開していました。メキシコの麻薬戦争に見られるような行政と犯罪組織が結び付いているというような事態が中南米の高校生にとっては身近なニュースであったためです。
これに対して、私が代表した日本やカナダ、ドイツなどの政治腐敗が身近でない国は、政治家の汚職対策を促す項目よりも行き過ぎた為替操作を止めさせるための合意をG20で締結することを促す内容をより多く取り入れたいとする主張を展開しました。
最終的には世界の若者世代の代表として何を主題にするべきなのかという点で議論が収まり、行き過ぎた為替操作に対抗する合意よりも政治腐敗を止めさせる合意の締結を急ぐべきとの結論に達しました。この結論の根拠としては若者世代が被害を受ける可能性は行き過ぎた為替操作によるものより政治腐敗によるものの方が高いということが挙げられます。最終的にコミュニケは以下のような4つの項目ごとに5つの質問を提示する形になりました。
財政・デジタル・環境・G20…20の質問まとめる
「G20に対する20の質問」 ハンブルク、ドイツ、2017年7月8日
私たちは2017年7月のG20サミット会期中にハンブルクに13カ国から集った20人の生徒である。Global Classroomの一部として、私たちは熱意をもって私たちの世代の未来にかかわる地球規模の課題を審議し、私たちはG20の交渉の重要な部分となると考えた20の質問を合意した。私たちは各位が若者の声を考慮に入れることを請う。
・公正で持続可能な財政システム
若者はいよいよ財政システムに影響されるようになるごとに、経済の不安定による経済的課題に直面するようになっている。私たちは以下の質問に照らして私たちがより明るい財政の未来を待ち望めることを願う。
1、どのようにG20は若者の貯金の実質価値が先進国の低金利と途上国の経済的不安定さによる減少を迎えないことを保証できるか?
2、どのようにG20はとりわけ若者にとって住宅を手ごろな価格にするための立法を促進できるか?
3、どのようにG20は世界規模での教育を通した基礎的財政能力を奨励できるか?
4、どのようにG20は保護主義に陥ることなく公正で自由な貿易協定を定め若者に利益をもたらすことができるか?
5、どのようにG20は多国籍でインターネットを利用した企業への課税を施行し租税回避を阻止するために協働すべきか?
・デジタル化
私たちはデジタル化の重要性から基礎的なデジタルの需要が世界中で満たされていることが確証されなければならないと感じている。これは特に科学技術が社会の開発の不可欠な部分となる若者世代の未来に関連している。
6、インターネットアクセスのない43億人をインターネットに繋ぐためにどのような実践的処置をG20は実行しうるか?
7、どのようにG20はデジタルにおける大規模な性別の差を埋めるように組織を続伸できるか?
8、国境を越えたデジタル市場への公平なアクセスを拡大するためにG20はどのような行動をとることができるか?
9、安全で責任あるソーシャルメディアでの行動を促し若い才能をデジタル産業で育成するためにG20はどのようにデジタル教育を実行できるか?
10、個人情報の保護と負の経済搾取の阻止をG20はどのように促進できるか?
・環境
私たちはG20メンバーに気候変動の影響を抑制するための政策を立案することを要請する。なぜならこの脅威を集結させないでほかの地球規模課題を解決することは不可能であるからだ。私たちは私たちの惑星に向けられた無責任な行動によって私たちの未来が危機にさらされることを強く懸念する。
11、長期的な経済成長を妨げ、開発途上国の労働条件を悪化させる環境的に持続不可能な企業をG20メンバーが支援することを阻止するためにG20は何ができるか?
12、私たちは、再生可能エネルギーを、再生不可能エネルギーや原子力エネルギーより優先して将来の最初の選択肢にするために、どのように魅力的なものにするか?
13、どのようにしてG20は、環境への危害を制限するために、より循環型経済への移行を各国に促すことができるか?
14、どのようにしてG20が環境活動家団体と協力して、毎年約65,200平方キロメートルの熱帯雨林などの自然生息地の喪失を減らすべきか?
15、危機的に増加している気候難民を助けるためにどのような手段をG20は実行する予定なのか?
・G20と世界
私たち若者世代はG20がとりわけ移住、政治、グローバル機関の職務と汚職に対する戦いの分野で私たちの未来を形づくる重要な役割を担うことを信じる。
16、現状の難民危機に対処するためG20によって何が成され得るか?どのような政策が実行に移されるべきか?
17、汚職に対処するためにG20はどのように非政府組織(NGO)と協力できるか?
18、G20は国家主義者のポピュリズムをG20の価値への脅威と見なしているか?もし、そうであるならば、G20はどのようにその拡大を阻止できるか?
19、国際通貨基金(IMF)や世界銀行といったグローバル機関の参画からG20はどのように利益を生み出せるか?それらの影響はどの程度大きなものであるべきか?
20、G20は現在の地球規模の財政と政治の危機の未来の結果をどのようにコントロールできるか?」
このコミュニケには私が提案した質問を3つ入れることができました。具体的には保護主義の質問と住宅の質問、財政教育の質問です。
今回、私たちが採択したこのコミュニケはドイツの財務大臣に提出されます。
カナダ外相と会食「差別を憎む」印象的
ところで、今回、G20の会期中であったこともあり、私たちの宿泊していたホテル周辺や会議場の近くではデモが毎日のようにあり、その中には暴徒化し、けが人が出る事態になったものもありました。このようないきさつもあり、会議場のあるハンブルク市内は厳重な警備がしかれ、一日中警察車両や救急車のサイレンが鳴っていました。こういった状況を目の当たりにし、国際政治の緊張感を肌で感じました。
また、会議の最終日にはハンブルク市内のイタリアンレストランでカナダのフリーランド外務大臣と私たち参加者が会食をしました。その席では今回のG20に関してさまざまな議論を交わしました。フリーランド外相が「カナダ人は差別を憎む」と言っていたことが印象的でした。そのためか、フリーランド外相は私を含めた13ヵ国の代表20名全員と言葉を交わし、すべての質問に答えてくださいました。
さらに、その後、カナダのジャスティン・トルドー首相ともお会いしました。
一国の利益だけ求めても国益は守れない
会議全体を通して特に印象に残っていることは、行き過ぎた為替操作を問題の1つとして取り上げ、一国における財政政策の決定が国際市場にもたらす影響をシミュレーションしたときのことです。そのとき、一国が自国の国益のために為替操作をして、一時は利益を得ても、後々、貿易先の国が、自国の行った為替操作によって不況に陥り、自国と相手国との輸出入の取引が滞れば、自国の不利益につながると知りました。
このように、国家が国益を追い求める中で、一国の利益だけを求めているのでは、自国の利益さえも守れなくなる。国益を確保するためには、国際協調・世界全体の利益という視点を政策決定の上で外してはいけないと学びました。
だからこそ、国家間の協力を進めていくことが重要なのだと、今回、あらためて認識しました。