国連開発計画(UNDP)は、世界の国々が貧困の削減や人権の保護といった課題を解決できるよう支援する機関だ。高校生記者のインタビューに応じてくれたのは、駐日代表を務める近藤哲生さん。UNDPの仕事内容や、日本にできる支援、国連機関で働きたい人へのメッセージなどを聞いた。
(聞き手・平松咲羅、諸角優英、中川奈津子、金子夏望)
 

近藤さんの温かな人柄にふれ、高校生記者たちも笑顔に


困っている国を3分野で応援
 
――UNDPは、どんな活動をしているのですか。
 
近藤 主に3つの分野で、困っている国を応援しています。
 
 1つ目は、貧困を少なくすること。そのためには、それぞれの国が環境を守りながら資源を大切に使う産業を持ち、人々が仕事をしてお金を稼ぎ続けることができる仕組みをつくる必要があります。この仕組みを、私たちは「持続可能な開発プロセス」と呼んでいます。
 
 2つ目は、それぞれの国に民主主義を実現できる能力をつけてもらうこと。国民の生活を助けるための国や行政の仕組みづくりと運営を応援しています。
 
 そして3つ目は、災害や紛争などが起きても、そこから立ち直れる強い社会をつくること。十分な災害対策などが行われていない途上国に対して、ダメージから回復できる強い社会を構築してもらうための支援をしています。
 
――どんな国の支援に力を入れていますか。
 
近藤 特に多いのは、アフリカ、中央アジア、南アジアの国々です。過去に紛争に巻き込まれた国や大きな災害に遭うことが多い国、伝染病が発生しやすい国を重点的に支援しています。
 
――UNDPで働く人の仕事内容を教えてください。
 
近藤 約129カ国にUNDPのオフィスがあります。私は以前、アフリカ中央部のチャドで働いていました。現地で「県庁や市役所を運営する人がいない」と聞けば、それをつくる計画を立てて実行し、「裁判ができない」と聞けば、裁判官や検察官、弁護士を育てる仕組みをつくる。それぞれの国が何に困っているのかを把握し、解決していくのが海外にいる職員の仕事です。
 
 駐日代表事務所の職員の仕事は、UNDPの活動内容を政府や国会議員、マスメディアや民間企業、NGOの人らに説明することです。日本政府はUNDPに多くの資金拠出をしています。そのお金は国民が払った税金なので、その使い道を国民の皆さんに説明する必要があります。
 
日本に学びたい国が多くある
 
――日本はどのような支援を行うべきでしょうか。
 
近藤 海外の人は日本に対してどんな印象を持っていると思いますか? 日本には、サムライのように体だけではなく心の強さを重んじる独特の文化や、日本語の表現に見られるような豊かで細やかな感性がある。そして、日本製品の技術の高さは世界に広く知られています。
 
 海外で仕事をすると、「私は日本人です」と言うだけで「この人は能力があり、優しくて、高い技術も持っている」と思ってもらえます。これは、すごく得なことですよ。歴史的に見ても、日本は第2次世界大戦の敗戦から一生懸命努力して復興を遂げ、さまざまな国の発展に貢献してきました。これは世界の多くの国々が認めていることです。
 
 途上国支援に関しても「自分たちの行動を通して、日本社会のよいところを学んでもらう」という視点を持てるとよいと思います。日本には、素晴らしい教育制度や医療保険制度があります。警察や司法制度も整っています。戦争で負けた国が、なぜこれだけのものをつくれたのか。それを学びたいと思っている国々がたくさんあります。
 
 ただし、「教えてあげる」と上から目線で日本のやり方を押しつけるのではなく、それぞれの国の人々と同じ目線で「どうしたら、もっとよくなるか」を一緒に考え、話し合うことが大切です。そのためには、現地の人々と心の距離を縮め、「仲間」だと認めてもらうことが重要です。
 
世界の未来に責任を持つ志を
 
――将来、国連機関で働きたい高校生にアドバイスをお願いします。
 
近藤 やはり言語は大事です。国連で使う言語は機関によって違いますが、UNDPでは英語・フランス語・スペイン語のうち1つができればよい、2つ以上できればなおよい、とされています。ただし、自分の言いたいことが相手に誤解なく伝わればよいのであって、外国語の専門家になる必要はありません。
 
 より大切なのは、相手の目を見て「あなたと分かり合いたい」という気持ちを伝えることです。書類を読み上げるのではなく、自分の言葉で自分の思いを伝えるコミュニケーション能力を高めてほしいと思います。
 
 国連職員になりたい人は「世界全体のために、人々の未来に責任を持つリーダーになる」という志を持ってほしいです。UNDPで働きたい人は、医療・法律・教育・会計・広報など、どんな分野でもよいので、まずはプロフェッショナルとして3年間働いてみてください。そして、大学院に通って修士号を取得し、自分で調べて考えたことを論文で証明する力を身につけてください。
 
 今年は、2000年に採択された貧困・飢餓の撲滅などを掲げたミレニアム開発目標を達成する期限であると同時に、次の15年間をどうすればよいかを考える重要な年です。この先の未来を担う人が、この記事を読んでいる皆さんの中から出てきてくれることを願っています。
 
(構成・安永美穂、写真・幡原裕治)
 

 

 

国際機関職員になるには?
 主に①空いている役職の公募に応募する②外務省が実施しているJPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)派遣制度に応募する③国連事務局が実施するYPP(ヤング・プロフェッショナル・プログラム)試験を受ける――という方法がある。
 ①と②では、大学院に通って修士号を取得し、2年以上の実務経験を積む必要がある。③は大学卒業後(学士号を取得後)、職務経験がなくても応募可能。②と③の試験に合格した場合は、国際機関に原則2年間勤務した後、能力次第で職員として正式採用される可能性がある。
 詳しく知りたい人は、「外務省 国際機関人事センター」のウェブサイトを見てみよう。http://www.mofa-irc.go.jp/

(高校生新聞 2015年6月号から)