木槌(きづち)打診による音の違いで木の健康を調べる

木の健康状態を診断し、治療を施す樹木医。天然記念物に指定されている樹木や、普段何気なく目にする学校・公園の木々が元気に成長を続けられるのは、樹木医の存在によるところも大きい。樹木の診断や治療を行う会社「樹診」で、樹木医として活躍している二階堂由紀さんに仕事内容を聞いた。(文・写真 中田宗孝)

二階堂由紀さん 高校卒業後、一般企業での勤務を経て、東京農業大学地域環境科学部造園科学科に入学。大学卒業時に樹木医補の資格を取得、樹診に入社。2008年に樹木医資格審査に合格し、現在に至る。

 

音で健康状態がわかる

──どんな木を診断していますか。

行政や造園業者から依頼を受けて、街路や学校、公園に生えている木を診断しています。神社や寺などにある、樹齢が長く歴史的な文化財としても価値の高い樹木を診ることもあります。

──診断方法は。

「外観診断」と言って、まずは目で見て、枝葉がよく茂っているか、幹や枝に損傷がないかを診断します。肉眼での観察とあわせて、道具も使って樹木の健康状態を確かめます。幹を木槌(きづち)でたたくと、音の違いで木の内部が腐って空洞になっているかどうかが分かるんです。元気な木は、木槌でたたくとすぐに音が返ってきますが、音の反響が遅かったり、低い音だったりした場合、木が何らかの原因で幹の内部に異常がある可能性が高いと判断できます。

また、木の中を調べる「精密診断」を行うと、木の内部の状態を詳しく確認できます。直径3㍉の細いキリを幹に貫入する測定器を使います。道路沿いや駅前に植栽された街路樹は根元が狭い場所に植えられているため、根をしっかりと張れません。木にとってあまり良い環境とはいえず、元気そうに見えても内部に異常を抱えているケースも。精密診断では、そんな木を検査することができます。

数年治療することも

──治療方法は。

木が生きている周辺の生育環境を改善する「土壌改良」という治療法があります。木は土の中の水分と養分を吸収して光合成を行って成長します。根が土からの養分・水分を吸収しやすい状態にするため、「動力噴霧器」を使って土に肥料や改良剤の薬液を注入して土壌環境をより良くして回復させるのです。(そのほかはコラム参照)

一般の方でも分かるくらいに弱って衰えている木を回復させるには何年も月日がかかります。私の会社でも、定期的な診断や土壌改良を繰り返しながら、3~6年かけて治療している木もあります。

──仕事にやりがいを感じる時は。

木の声は聞こえませんが、痛々しさは伝わるので、早く治してあげたい気持ちになります。弱ってしまった木を治療して、元気になっていく様子が分かった瞬間は、大きな達成感があります。

身近な木を観察しよう

──樹木医になるために高校生の時からできることはありますか。

自分の身近にある木を観察してみると、種類の多さに気がつき、季節によっていろんな木の表情があることが分かります。定期的な木の観察から興味を広げて、木の病気の種類などを自己学習することはできます。

樹木医の仕事は、樹木に関する勉強だけではなく、植物、土、水、虫や病気の知識も必要。生物や化学の授業で勉強しながら、植物園を訪れたり図鑑を読んだりしながら楽しく学んでください。

 

樹木の病気&治療法

樹木の病気の原因や症状、その治療法の一部を紹介する。(写真は樹診提供)

生きている木を腐らすキノコ

 

病原性の強いベッコウタケやコフキサルノコシカケなどのキノコが木を腐らせてしまう。木に生えたキノコや腐った部分を取り除き、乾燥後殺菌剤を塗布する。しかし、材の中の菌をすべて除去することは難しい

木の空洞化

処置前
処置後

経年や環境の変化で傷が腐り空洞化する。木自体の治癒力で穴を塞いでいくが、傷害部分に菌が侵入しやすい状態でもあるためケアが必要。傷口に殺菌剤を塗り、樹皮が速やかに自然に穴をふさぎやすくするために、骨組を設置しビニールなどで空洞部分を一時的に覆う。

 

虫による被害

 

ゴマダラカミキリやコスカシバの幼虫は樹皮下、幹の中に潜って木の材を食べてしまう。虫があけた穴から、細いノズルの付いた殺虫スプレーを噴射して幼虫を駆除。ゴマダラカミキリは成虫になると緑枝を食べるようになるため、見つけ次第、捕殺処分する。

 

樹木医になるためには

樹木医になるための研修を受ける条件として、樹木に関わる7年以上の実務・研究の経験が必要。ただし「樹木医補」の資格を取得していれば、実務・研究の期間が1年で(一財)日本緑化センターが実施する樹木医研修の選抜試験を受けられる。現在、40の大学(短大含む)と17の専門学校が「樹木医補」資格養成機関として認定を受けている。現在、2600人以上の樹木医が全国各地で活躍している。