今年1月、第90 回全国高校サッカー選手権大会で、初出場でベスト8入りを果たした市立西宮。県内指折りの大学進学率を誇る公立高校が、文武両道で見せた快進撃の裏には「切り替えと集中力」をテーマに掲げた濃密な練習方法があった。 ( 文・写真 白井邦彦)

大路照彦監督(50)は、快進撃の理由を「まず文武両道」と話す。2009年度に公立合格者を校区で分ける「総合選抜制度」が廃止され、広い地域から入学できるようになった市立西宮には、学校の魅力もあって多くの有望な選手が集まるようになった。「サッカーが強いだけでは進学したいとは思われないでしょ(笑)」とは大路監督。選手権大会で「文武両道」と言い続けていた裏には、学力を高める努力もあった。

「仮に同じスキルの選手がいたら、試合では学校の成績がいい方を使う」と大路監督は言い切る。文武両道を表した言葉の一つだ。試合に出るには猛勉強するしかない、極論を言えば、勉強もサッカーの一部というわけである。

キャプテンで選手権ベスト8メンバーの大道壮毅(3年)=兵庫・瓦木中出身=は「理系コースで勉強したかったから(市立西宮を)受験した。だから、勉強とサッカーの両立は当たり前だと思っているけれど、正直、練習で疲れて勉強がつらい時もある」と言う。その時に大切なのが頭の切り替え。「普段はサッカーのことを考えない。逆に練習や試合ではサッカーだけに集中する」と大道は言う。集中力と頭の切り替え、スポーツに必要な二つの要素は文武両道によって育まれるのである。

さらに注目すべきなのが時間の有効活用だ。勉強時間を確保するため、部員に与えられる練習時間は1日2時間半ほど。激戦区の兵庫を勝ち抜くには、いかに効果的な練習メニューを盛り込むかがテーマになる。

秘訣の一つが「何もしない時間をつくらない」(大路監督)こと。副キャプテンの岡田大知(3年)=同・上ヶ原中出身=は「パスやシュート練習のときに、どうしても待ち時間は生まれる。でも、その時にぼんやりせず、イメージトレーニングや体幹トレーニングをする」と話す。

一つの練習にさまざまなスキル向上の要素を盛り込み、「練習を濃密に」(大路監督)するのも特徴だ。

例えば、シュート練習では、攻撃4人と守備2人に分かれ、守備陣がボールを奪ったら、攻撃陣の1人が守備に回って攻守交代。この一連の練習に、シュート練習、ボール回しのスキル向上、守備の崩し、攻守の切り替えなど複数の要素が含まれている。

また、3色のビブスを使ったゲーム形式の練習では、例えば「赤色は青色にしかパスを出せない」といったルールを作る。そしてルールを頻繁に変更しながら練習を続けていく。その中で鍛えられるのが、状況判断力である。

一つの練習メニューにいくつもの意味を持たせて選手のレベルを上げ、全員でボールをつなぐイチニシのサッカー。時間を有効に使う超集中型の練習で狙うは、もちろん選手権連続出場だ。大道キャプテンは「今年も出てこそ意味がある」と力を込める。

強さのポイント3ヶ条

①勉強と部活の頭の切り替え

②待ち時間にもトレーニング

③一つの練習で複数のスキルをあげる

【部活データ】
 ●創部/ 1949 年●部員(2・3年生) 選手38 人・マネジャー7人●練習時間/毎日約2時間半(月曜休養、土日は試合か約2時間半の練習)●指導者/大路照彦(50)、加藤忠史 (48)、杉山幹雄(38)●主な実績/ 2011 年度全国高校サッ カー選手権大会ベスト8●モットー/努力が奇跡を生む

取材を終えて

2時間半ほどの練習で、休憩以外で動いていない選手がいないほど、みんなが常に何かをしている。しかも無駄話は皆無。限られた時間を有効に使おうという意識の高さが伝わってきた。当然、練習場には緊張感がある。