仙台育英(宮城)硬式野球部は、甲子園優勝ではなく、甲子園を楽しむことを目標に掲げて練習に励む強豪だ。プロ注目のスラッガーと2人のエースを中心に、みんなで今夏の甲子園出場を目指す。( 文・写真 阿部理)
6月の春季東北大会。準決勝と決勝で、ここ数年の同大会で勝てなかった聖光学院(福島)と盛岡大付(岩手)をそれぞれ下し、14年ぶり11回目の優勝を果たした。佐々木順一朗監督(53)は「(今までの)お返しができた」と話すが、チームは万全な状態ではなかった。「けがで主力選手が欠場したが、逆にチームがまとまり、いつもよりしっかり戦うことができた」と振り返る。
プロ野球のスカウトも注目する、主将で4番の上林誠知(3年)=埼玉・土合中出身=も本調子ではなかった。左足首を痛め、フル出場を果たしたのは春季県大会の準決勝からだった。その後回復し、東北大会の決勝では2安打3打点を挙げ勝利に貢献。「調子がどうであれ、結果を出すのが4番の役割。ここで負けるわけにはいかなかった」(上林)と力を込める。
投手陣には鈴木天斗(3年)=宮城・松島中出身、馬場皐輔(3年)=同・塩釜三中出身=のダブルエースを擁する。東北大会では交互に先発し、ともに全試合で完投した。
鈴木の持ち味は、多彩な変化球と安定した制球力。「冬に筋力アップに努め、その成果が確実に出ている。変化球の自信も増した」(鈴木)
一方、馬場は速球で押す豪腕タイプ。東北大会で自己最速の146㌔を記録した。「スピードを生かし、武器であるスライダーを効果的に使えれば」(馬場)と、夏に向けての手応えをつかんでいる。
チームを支えるもう1人の立役者が、グラウンドマネジャー(GM)の水沼航平(3年)=同・折立中出身=だ。佐々木監督は、練習に関する一切を水沼に任せている。練習中、部員は水沼の指示で動き、メニューをこなしていく。
水沼がGMに指名されたのは1年生の冬。選手としてレギュラー入りを目指していたが、「チームのために」とGMになることを決意。昨秋の就任以来、「チームが弱くなったら自分のせい」と部員に対して厳しい姿勢を貫き、チームの好調を陰で支え続けている。 同校は甲子園の常連校だが、佐々木監督は「(甲子園の)優勝を目標に掲げたことは一度もない」と言う。「大事なのは、みんなで甲子園という最高の舞台を、どのように楽しむかだと考えています」
部員たちが目指しているのは、勝っても負けても笑顔で終えること。県大会の初戦は7月16日。仙台育英ナインの夏物語が始まる。