戸村峻君(東京・広尾学園高校3年)は「お笑い大道芸人・米ジャグ」を名乗り、都内のイベントなどで公演を続ける。技は独学、道具は自前。イベント担当者とのやりとりも1人でこなす。活動の原点は「みんなを笑顔にしたい」という思い。ジャグリングとお笑いを組み合わせた、「オンリーワン」の芸人を目指す。(文・小野哲史、写真・幡原裕治)
5月17 日、東京・豊洲の海辺で行われたイベント。戸村君は子どもたちを前に、空中でこまを回す「ディアボロ」、カップの中でサイコロを振り、何段にも積み上げる「ダイススタック」といった多彩な技を、次々に繰り出した。
芸をしながらも、「風強いねー」「これができたら拍手ね!」など、子どもに話しかける。得意の「あごバランス」で、椅子2つをあごに乗せる大技を成功させると、子どもたちから拍手と歓声が沸き起こった。
戸村君は中学までは野球少年。ところが、中学3年の時に足をケガして野球を断念、興味のあった大道芸を始めた。高校2年からは江東区の公認芸人となり、休日にイベントで公演を行う。多いときには、月8回ほど公演をすることもある。
地元のジャグリングサークルに所属するが、「基本的には独学です。動画サイトで見る映像をヒントに、自分で試しながら技を磨いています」と言う。「ホームセンターに行くと、いろいろな物があって、これを使ったら面白そうだな、とアイデアが湧きます」。出演料をもらえることも多いが、道具代を考えれば、「赤字にならない程度」だ。
昨年12 月、福島の子どもたちを東京・世田谷に招いてリフレッシュしてもらうイベントで芸を披露する機会があった。その時、枯れ葉で遊ぶ子どもを見た親の「ここでは放射能を気にしなくていいんだ」というつぶやきに胸が痛んだ。
「福島の人たちのために、少しでも力になりたい」と思い立った戸村君は、自ら被災者支援団体にコンタクトを取り、今年4月に福島県相馬市を訪れた。給水が行われている倉庫で芸を披露すると、集まった子どもはみんな笑顔になった。大人たちも「高校生が1人で来てくれた」と感激してくれた。
戸村君は、お笑い芸人の顔も持ち、イベントの司会やライブ出演を重ねる。「拍手は欲しいが、笑いも欲しい。お笑いと大道芸をミックスした新しいスタイルを生み出したい。目標とする人はいない。オンリーワンです」
「子どもが好き。たくさんの子を笑顔にしたい」。その言葉の通り、この日のイベント終了後には、笑顔にあふれた子どもたちが戸村君を囲んで握手攻めにしていた。
- 【とむら・しゅん 】
- 1995 年生まれ。東京都出身。中学3年から大道芸を始め、高校2年から江東区の「街かどアーティスト」に認定される。大道芸人としての芸名「米ジャグ」は「コメディとジャグリング」が由来。お笑い芸人としても活動。ブログhttp://ameblo.jp/team-t-and-n/ ツイッター@komejugg