東京都内の進学校に通う栗栖朱利(くりす・あかり)さんと河東未夢(かわひがし・みゆ)さんは、昨年4月に漫才コンビ「カルーアミルク」を結成して活動する2年生です。コロナ禍の閉塞感をバネにしてネタ作りに励み、「M-1グランプリ2020」に挑みました。結果は1回戦敗退ながらも「ナイスアマチュア賞」を受賞。漫才に夢中になった女子高校生コンビの“笑撃”の素顔に迫ります。(文・写真 中田宗孝)
「M-1グランプリ2020」予選で披露したネタ「人助け」
コロナ休校中にビデオ通話「漫才やってみたくない?」
―2人は、なぜ漫才をやってみようと?
栗栖朱利さん(以下、栗栖) コロナの影響で休校中だった昨年4月、同級生の未夢ちゃんとビデオ通話をしてたときに「漫才やってみたくない?」という話になったんです。
私たちはお笑いがめちゃくちゃ大好きで、それまでも「NON STYLE」さん、「四千頭身」さんの漫才をはじめ、お笑いの動画をいろいろ勧めあっていたんです。
河東未夢さん(以下、河東) 「この芸人さん面白いよ。見て、見て!」ってね。
栗栖 最初はそんな軽いノリだったんですが、どうせやるならオリジナルのネタを作ってみようとなって、漫才のネタ作りを始めました。
―漫才ネタをいきなり作れるものなのですか?
河東 私たちは、お笑い番組・動画をよく見ていたので、漫才の構成や展開、掛け合いの仕方みたいなのは何となく感じるものがあって。そんなお笑いの下地の知識があり、初めてのネタ作りだったんですけれど……できたんです。
ここのくだりにボケを入れようとか、ネタの前半に張った伏線を後半で回収しようとか。
栗栖 昨年5月にオリジナルの漫才ネタが1本完成したときに「ウチら、イケるじゃん!」って大盛り上がり。自己肯定感が高いんです、私たち(笑)
それで、高校生でも参加できるお笑いの大会があるか調べてみると「M-1グランプリ」は、何歳からでも出場できると分かって。
河東 ウチらも出られる!
栗栖 じゃあ「M-1」を目指して、漫才コンビとして本気でやってみようってなったんです。コロナ禍で私たちの高校生活もたくさんの不自由がありました。ですが、漫才の楽しさに気がつくことができたんです。
先生にあてられたときもついボケちゃう
―漫才コンビを組むほど仲良くなったきっかけは?
栗栖 恋バナだよね?
河東 そう、恋バナ。で、一緒に遊びに行き、お互いの生態を知って、意気投合したよね。
栗栖 高1の秋ごろに急速に仲を深めて、それから2カ月くらいで大親友になって。恋愛観や思考がよく似てたんです。
お笑い以外にも、昭和・90年代カルチャー好き、家族とめっちゃ仲良し、美味しいものを食べる瞬間が幸せ! といった共通点も多くて。
―普段の学校生活では、それぞれどんな生徒ですか?
河東 2人とも漫才を始める前から、学校でも人を笑わせるタイプ。私たちは、お互いにボケてツッコミを入れあいながら会話するのが日常なんです。それこそ、友だちからは「漫才してるみたい」なんて言われてました。
私は、友だちの前で「イエイ、イエイ!」ってボケるんですけど、栗栖は真面目な場でもボケてるよね?
栗栖 授業中、先生にあてられたときもついボケちゃうんです(苦笑)。私のボケがウケるとクラスは沸くけれど、当然まったくウケないこともあって「あ、ごめんなさい……」みたいな(笑)
河東 ハイリスク・ハイリターンの笑いを狙うよねー。
お酒じゃなくて、私たちの笑いで楽しくなって
―コンビ名「カルーアミルク」の由来は?
河東 コンビ名には意味があります。
大人の方って、つらいことや嫌なことがあったときにお酒を飲むじゃないですか。そんな気持ちになったら、お酒に頼るんじゃなくて私たちのお笑いで元気になってほしい、笑顔になってほしい、楽しい気分になってほしい。
そんな漫才コンビになれたらという思いを込めて、カクテルの中から、かわいくておしゃれさも感じる「カルーアミルク」を選んでコンビ名にしました。
栗栖 そして、カルーアミルクのカクテル言葉は「小悪魔」なんです。
河東 私たち、小悪魔的な気質をもっていたりもするのでピッタリだなって。
―こ、小悪魔?
河東 まわりからも「小悪魔」って言われるよね?
栗栖 あの、この人モテるんですよ、めちゃくちゃ。
河東 2人ともモテる。
栗栖 未夢ちゃんは「えっ!?」ってくらいモテてて、かなり告られてる。
河東 ……いえいえ、全然ですよ。
栗栖 否定が弱いじゃないですか。そういうことなんですよ。
河東 ……。まー、そんな感じですね。(恋愛の)荒波にもまれて生きてきました(笑)
でも顔面じゃない、ウチらは。コミュニケーション能力とさまざまな小悪魔的な要素を使ってね(笑)
栗栖 そう、顔じゃなくて愛嬌で売ってるよね、ウチら。漫才のネタでも「私たちモテるんだよねー」みたいなつかみから始めることが多いんです。
河東 基本、モテるベースのネタを作ってるよね。
ジャルジャルから影響受けて
―漫才のネタはどのように作っていますか。
河東 「これはオモロイわ!」っていうボケ(フレーズ)を思いついたら、そこにたどり着かせるまでの流れ(ストーリー、シチュエーション)を作ることもあるし、一連の流れを作ってから、そこにボケを足してネタを完成させることもあります。
栗栖 2人がそれぞれ作ることもあるし、話し合いながら共作するパターンもあります。
河東 雑談をしているとき「え、今の面白くない?」って、漫才ネタに派生することもあるよね。
―ボケ、ツッコミの担当は決まっているのですか。
河東 役割は決まっていません。
栗栖 日常会話でもボケたりツッコんだりの2人なので、漫才で私がボケることもあれば、ツッコミになることもあるんです。
河東 2人でボケ合う「ダブルボケ」の漫才ネタもあります。
栗栖 私たちが大好きな「ジャルジャル」さんの漫才にも、ボケとツッコミが明確に決まっていないネタがあるんです。自分たちの漫才スタイルも、ジャルジャルさんの影響を受けている部分はありますね。
お昼休みに漫才公演、ベタ褒めされて自信
―漫才の練習はどのように取り組んでいるのですか?
栗栖 登校が再開してからは、昼休みに学校のベランダで練習しました。みんなからの「何やってんの?」という視線を感じながら。
河東 気にせず、大声で漫才の練習をするというね。
栗栖 休校期間中はビデオ通話で練習していたんですが、正直、気持ちがあまりのらなかったんです。
河東 ビデオ通話だと、数秒のタイムラグがあるので“間”を作るのが難しいんです。だから台本だけ覚えて、会えたときにしっかり練習しようねって。初めて2人でネタ合わせしたときは、もう、めっちゃ楽しかった!
栗栖 顔を合わせて練習してみると、ネタ作りのときより良いボケが浮かんだりもして。2人の掛け合いのテンポがなんか悪いねってなったら、もう一つボケを加えてみようとか、ネタの完成度を上げることもできました。
―人前で漫才ネタを披露する機会はありましたか。
河東 はい。学校の親しい友だちの前で漫才をやりました。お昼の時間に「これから漫才やるから見に来れる人は来てください」と、クラスメートを中心に呼びかけて。で、「どうも~」ってね。
栗栖 始めは数人の女子しか見に来てくれなかったんですけど、何回かやるうちに男子も集まるようになり。
河東 先生も見に来てくれるようになって大盛況。程よい緊張感がある中でネタ見せできたのは、とても良い経験になったし、みんなが笑ってくれると、こっちもどんどんノッてきて、自信にもつながりました。
栗栖 こんなにウケんじゃん! なんてね(笑)。みんなの前でネタ見せしたことで場数を踏めたし、漫才を続けるモチベーションにもなりました。
―2人の漫才を見た友人や先生からはどんな言葉を掛けられましたか。
河東 みんな優しいからね、ベタ褒め(笑)
栗栖 ねー。最初はちょっと見くびられてたと思うんです。言うて2カ月前に漫才を始めたばかりで、さすがにオモロくないだろうと。でも「面白いじゃん!」「YouTubeやりなよ」「応援するよ!」と、私たちよりも盛り上がってくれて。
河東 ありがたい話だよね。オリジナルの漫才ネタができたときが盛り上がりの第一段階。で、2人でネタを合わせてみると「ウチら面白いぞ!」と、さらに盛り上がって、友だちの前でネタ見せしてすごく笑ってもらえて。もう……「うれしい! たのしい! 大好き!」ってなったよね。
栗栖 ドリカム(DREAMS COME TRUE)の曲ね。
「マブい」「チョベリバ」あえて古風なネタを入れてみた
―「M-1グランプリ2020」に参加した際のエピソードを教えてください。
栗栖 「M-1」で披露した「人助け」というネタは2人で考えました。ネタ作りで意識したのは、「M-1」審査員の方々の世代に響くような漫才にしようということ。ネタの中に有名芸能人の懐かしいネタを入れたり、「マブい」「チョベリバ」なんて古い言い回しを使ってみたり。
河東 ウチら若いだけじゃないんだぞ、こんな引き出しもあるんだぞ的な気持ちで。
栗栖 “リアルJK”という属性を前面に出して漫才するのもありだとは思うんですけど、私たちはこんな漫才ができるんだぞっていうギャップを見せたかったんです。
河東 「高校生なのに!?」っていう。
―コンビ結成からすべてが順調にいったのですね。
河東 実は「M-1」の前に「女芸人No.1決定戦 『THE W』2020」にもエントリーしてたんですけど、1回戦の動画審査で落ちてるんです。
栗栖 それまでは、私たちイケるっていう自信だけはすごくありました。なので「THE W」の1回戦は突破できるだろうと思っていたんですけど、ダメだった。
河東 あれ? 話が違うぞ。どうした、どうした私たちってなって。
栗栖 そこでネガティブにならずに、「『M-1』ではやったろ!」という気持ちになったんです。
河東 燃える感じ。落としたのを後悔させてやろうって。
―そして「M-1」本番を迎えるのですね。当日はどんな心境でしたか?
栗栖 「もう、ぶちあげていこうぜ!」と、本番前からテンションあがりっぱなしでしたね。
河東 「やばい、ウチらめっちゃかわいい! かわいくいっちゃう?」ってね(笑)
栗栖 「ウチらは絶対にウケる、絶対にウケる、絶対に成功する」「本当にすごいよね、ウチら」「来たわ、ウチらの時代だわ」なんて、偏差値60くらいの高校生が言い出しそうなポジティブワードしか出てこない待ち時間を過ごしてましたね。
―(笑)
栗栖 だけど出番の3秒前に、めっちゃ緊張が襲ってきた(苦笑)
河東 それでも「どうも~、カルーアミルクです」って、センターマイクの前に飛び出した瞬間には、2人とも普段どおりの楽しいモードになっていて、良いテンポで漫才ができました。結果は1回戦敗退でしたが、「ナイスアマチュア賞」をいただけたんです!
ボケもツッコミもできる 恋多きキャラで魅せる
―ずばり、「カルーアミルク」ならではの漫才とは?
栗栖 私と相方、どちらもボケもツッコミもできるのがウリです。そして、“恋多き”私たちのキャラクター性を、漫才の中でより誇張させた、“モテ”をベースにしたネタで笑わせます。また、女性芸人の枠にハマらない、男の方がやっても成立する漫才もどんどん作っていきます。
―漫才をやってみて性格など変わったことはありますか。
河東 それがないんです。私たち、漫才を始める前からこんな感じの目立ちたがり屋なので(笑)。元々仲良かったけど、漫才コンビを組んでからもっと仲良くなったよね?
栗栖 そう! コンビを組む前から一度もケンカしたことなくて。
河東 漫才ネタを考えているときに意見が割れても衝突するんじゃなくて、どっちのアイデアも試してみようってなるしね。栗栖とケンカしてみたいー(笑)
栗栖 大げんかしてさ、お互い別々の友だちに相談するんだけども、結局もっと仲良くなる、みたいな。
河東 雨降って――
栗栖 ――地固まる。そんなシチュエーションね。
―漫才コンビとしての目標や今後の活動予定は?
栗栖 漫才だけでなくコント台本も作っているので、近いうちにコントを見せられればと思っているんです。
河東 コントをやるなら衣装や照明にもこだわりたいなって考えていて。
栗栖 機会をいただけるなら学校行事で漫才をやりたいし、校内のお昼の放送でラジオ番組的なことができないかと2人で話してもいて。
河東 ねっ。あとは、自分たちのインスタグラムでネタ動画を定期的に投稿しているので、もっと多くの人たちに「カルーアミルク」の存在を知ってもらうのも目標です。
栗栖 とにかくいろいろなところで漫才がしたい。そんな気持ちなんです。この前、テスト期間でしばらく漫才ができなくて、未夢ちゃんが欲しくなりましたね。
河東 あはは(笑)
―将来、プロのお笑い芸人を目指そうと考えていますか。
河東 何か結果を出さないと生き残れない厳しい世界だというのは分かっています。自分たちは、まだ自信につながる結果が出せていません。なので、(芸人を目指すかどうか)迷ってはいるんです。
栗栖 お笑いで結果を残せれば……という感じなんです。今は「絶対に漫才で生きていく!」とまでは言えませんが、もしも2人で漫才をやりながらずっと過ごしていけるなら、めっちゃ幸せな人生だよね?
河東 うん!