人の瞳孔の映像をモニタリングする西村さん

埼玉医科大学 保健医療学部医用生体工学科 加藤綾子 講師

病院に不可欠な医療機器の中でも、特に生命維持管理装置に関する専門知識をもつ「臨床工学技士」は、国家資格。その資格取得を目的としているのが、医用生体工学科だ。学生は皆、臨床工学技士の資格取得に向けて、専門知識の修得に加え、臨床実習などで多忙な日々だが、3年次の6月から研究室に配属され、研究活動にも熱心に取り組む。

臨床につながる研究が目標

「私の研究室では、医用画像処理、細胞機能制御、生体計測などの分野を扱い、いずれも将来的には臨床の現場において、治療に役立つ研究にしたいと思っています」と加藤先生は話す。 臨床では病理画像(病気の元となる組織の画像)を見て病理医が診断するが、医用画像処理の研究では、画像処理によってがんなどを自動診断する仕組みについて追究している。
 また、細胞機能制御は細胞に刺激を与えて細胞の機能の活性化を図る。再生医療の分野で、患者が必要とする細胞や機能を、選択して発現させることに期待がもたれる。 生体計測は何種類か行っているが、そのうちの一つは瞳孔の動きに着目し、ストレスの度合いを計測しようというもの。「瞳孔の大きさはいろいろな要因で変化します。例えば、好みの人を見て瞳孔が開くのもそのひとつ。この大きさの調整には自律神経が関わっています。自律神経はストレスの影響も受けますから、瞳孔の動きを計測することで、ストレスの度合いを測れるかもしれません」と加藤先生。

いずれも学生主体の研究だが、事前に予測を立てて実験を進めても、思うような結果が出ないことに悩む学生が多いという。
 「週に一度のミーティングで、進捗状況を報告し合いますが、別の研究をしている学生から、違う視点でアイディアが出てくる場を大切にしています」

マウスの線維芽細胞に刺激を与える松本さん

臨床で生きる教育環境は卒業生も太鼓判!

まだ実用化に結びつかない研究の意義について「臨床の現場では、学校で扱った機器以外も、初めての機器を扱うことも。研究室での学びは、そのような新しい課題に直面した時のための訓練にもなります。また、答えのわからないものに対する取り組み方を学習する機会でもあるのです」と加藤先生。 この日、研究室を訪れていた細川美咲さん(2014年3月卒業)は、いま、臨床工学技士として大学病院に勤務している。「実習の豊富な埼玉医科大学で、4年間かけて積み重ねた専門知識は、臨床の現場で大いに役立ちます。新しく学ぶことに対しても、吸収する力があると実感しています」と言う。 加藤先生は「臨床工学技士は工学系ながら、医療現場で実際に患者さんと接して、目の前で人を助けることができるやりがいのある仕事です。本学の臨床工学技士育成の教育環境は、全国でもトップクラスに入ると自負しています。先端医療を身近に感じて学びたい人にお勧めです」とメッセージをくれた。

先輩に聞く
●西村太秀さん(4年) 長野・長野吉田高等学校出身
 1年次には「医療系を学びにきたのに、工学系や数学ばかり」と思っていましたが、4年になって、1年次の素地が活きていると感じています。数学をもっとやっておいてもよかったくらいです。現在、ストレスの度合いを測る研究をしていますが、いずれはストレスに関する指標を作り、その度合いによって休むことを勧めるなどができるようになればいいですよね。医用生体工学科の先生は、熱心な方ばかり。学生目線での講義やサポートがうれしいですね。
●松本美紀さん(4年) 東京・東京女学館高等学校出身
 振動という刺激を与えられた細胞が、どのような影響を受けるかを研究しています。細胞を早く増殖させることができれば、患者さんを待たせずに早期の治療に結びつけられます。なかなか思うような結果が出ず、つまずくと先生に相談して意見交換をし、次の方法を考えます。国家試験のための勉強も研究も、コツコツやる必要がありますが、そのための環境は整っている大学です。