沖縄本島から西へ約100㌔に位置する久米島。島唯一の高校である久米島(沖縄)野球部が、昨年夏の全国高校野球選手権県予選で、11 年ぶりに8強入りを果たした。初の甲子園出場に島民の期待も高まる。躍進の裏には、新任監督と部員との葛藤の日々があった。(文・写真 白井邦彦)
年に赴任した嶺井政彦監督(49)は、歩いてボールを追う部員を見て「本当に甲子園を目指しているのか」と怒りを覚えた。バックネットに取り付けられた「めざせ! 優勝!!」の旗が恥ずかしかった。
意識改革から取り組もうと、監督は全力疾走の徹底を部員に求めたが、強い反発を受けた。約2カ月の押し問答の末、辞任覚悟でこう告げた。「楽しくやりたければ、それでもいい。その代わり旗を外せ」。この言葉に部員たちの気持ちは揺らいだ。
監督が言う「全力疾走」が正しいかどうか判断できなかったが、旗は外したくない。部員は監督を信じ、全力疾走を心掛け、がむしゃらに白球を追うようになった。
それから約1年。昨夏の県予選3回戦では、サヨナラ3ランで劇的な勝利を挙げ、11年ぶり2度目のベスト8進出を果たした。
当時、1年生で試合に出ていた安田望(2年)=沖縄・仲里中出身=は「サヨナラの場面が印象深いけれど、好機を演出した先輩の全力疾走が久米島らしさだった」と振り返る。内野ゴロでも諦めずに一塁へ走り、相手のエラーを誘ったことが逆転劇につながったのだ。 主将の糸村拓(3年)=同中出身=は「当たりの悪い打球でも全力疾走すれば、プレッシャーを与えられる。諦めないことの大切さをあの試合で学んだ」と話す。
今年3月の春季大会。1回戦で0-8の大敗を喫したが、本番はこれから。沖縄の頂点へ上り詰めるまで、全力で走り続ける。