福岡県立青豊高校書道部は〝書の甲子園〟で優勝5回、準優勝7回を誇る書の名門。街には書道部員の書があふれ、生徒が〝先生〟になっての成人向け書道教室はすでに22年。「書のまちづくり」に貢献している。 (文・写真 南隆洋)
市役所の市長応接室には、部長の中井希美さん(3年)の大書「愛豊」の額、警察署には薄知可慧さん(2年)の「温和丁寧」、病院には羽廣奈津美さん(3年)の「上を向いて歩こう」の歌詞。こうしたそれぞれの場にふさわしい書が学校から貸し出されている。
豊築農協が発売している「豊前の茶」のラベルの書は、木戸美聖さん(3年)の作品。市内全戸に配られる市の広報誌の題字「豊前」は毎月、部員が交代で書き続けている。地域のレシピ集の題字や催事の横断幕を書き、イベントや老人ホームでのデモンストレーションなども行う。顧問の清原大龍先生は「頼まれたら断らない」と説明する。
2010年、NHKの青春ドラマ「とめはねっ!鈴里高校書道部」で放映された1300文字にも上る「九成宮醴泉銘」臨書なども部員の作だ。生徒が講師を務める年間15回の市民向け書道講座は、20代から80代の修了生約1800人を出した。
発泡スチロールや段ボールをくりぬいたり、470個ものペットボトルキャップに一字一字記したり、文字ゲームを作ったり……。「青豊の書」は無限の可能性を切り開いていく。
■練習で喜びの涙
夏休みの練習を訪ねると、全員で大筆を握り音楽に合わせてデモンストレーションの練習をしていた。部長の中井さんは「『ハイッ!』と返事をして礼儀正しく、忍耐強く書に集中」と10人の仲間をリードする。坂本瑞みずき稀さん(1年)の目から涙があふれた。「小学生のころからの憧れ。感動と喜びが込み上げてきました」
■練習は掃除と音読から
毎日の部活は、まず校内の掃除から。そして新聞一面のコラムを音読し、ボールペンで清書する。筆を執るまで約1時間。「文章力を付け、自分の言葉を書けるようになってほしい」(清原先生)との願いからだ。
平日3時間半、土日祝日は10時間の練習。毎日欠かさないのが1時間以上の古典の臨書。古典を深く学び、広く社会と関わり努力し続ける中で、「人間性を高め感性が育つ。それが、創作のエネルギーとなる」と旧築上中部高校以来、指導31年目の清原先生は語る。