宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大西卓哉宇宙飛行士が約4カ月間、国際宇宙ステーション(ISS)での実験に挑む。ISSとはどんな施設で、大西宇宙飛行士に課される任務は何か。Q&Aの形式でまとめた。
(野口涼 取材協力・JAXA広報部)

 Q どんな施設なの? 

日本、米国、ロシアなど15カ国が協力して運営する、いわば「宇宙の研究所」。地上約400キロの地球周回軌道を1周約90分のスピードで回っている。宇宙空間ならではの環境を利用した実験・観測を行うことが目的だ。宇宙飛行士が入れ替わりながら、3〜6カ月程度滞在する。

大きさは幅約108メートル、長さ約73メートル。このうち食事などをする「居住モジュール」と、日本・米国・欧州がそれぞれ開発した3つの「実験モジュール」などを合わせた容積はジャンボジェット機とほぼ同じだ。このほか、電力を作り出す「太陽電池パネル」や、船外での作業で活躍する「ロボットアーム」などで構成される。

 Q どんな実験をしてきたの? 

ISSの中では、地上の1万分の1から100万分の1という「微小重力」、また、周囲の宇宙環境は、気圧が地上の100億分の1という「高真空」、銀河宇宙線や太陽粒子線といった宇宙放射線が強いことなど、地上とは大きく異なる。

こうした特徴を利用して、これまでに80カ国以上の研究者が関わり新薬の開発や高齢者医療などにつながる1760件以上の実験・観測を行ってきている。

最初のモジュール(ユニット)を打ち上げたのは1998年。その後、ブロック玩具をつなぎ合わせるようにして建設を進め、2011年7月に完成した。

 Q どう役に立つの? 

これまで、主に基礎科学の発展のための実験・観測を行ってきた。今後は、それらを製品開発などに応用することを目指す段階を迎えている。その例の一つが「タンパク質結晶生成実験」。微小重力下では地上よりも高品質のタンパク質の結晶が生成できることを利用し、新たな医薬品の開発につなげる。

実際にISSで作った結晶から、難病の筋ジストロフィーに関連するタンパク質と治療候補薬になる化合物の結合状態が詳細に分かった。その結果を活用した医薬品開発が検討されており、現在は製薬会社で動物実験を行っている。

 Q 日本独自の施設はあるの? 

日本が開発した実験棟「きぼう」は、ISSのモジュールの一つで、日本初の有人宇宙施設だ。中でも「船内実験室」は直径4.4メートル、長さ11.2メートルとISSの実験室でも最大。宇宙飛行士が普段着で滞在できる船内実験室には、生物系の実験ラック、物理系の実験ラック、温度勾配炉、さまざまな実験に用いる多目的ラックの4つの実験ラックなどが設置されている。

また、宇宙空間に露出している「船外実験プラットフォーム」では、実験装置を宇宙空間にさらし、空気がなく視野が広い宇宙環境を利用して天体や地球の観測などを行える。筑波宇宙センター(茨城県)の運用管制室では、24時間365日体制できぼうの運用・管制が行われている。

 Q 大西さんは何をするの? 

大西宇宙飛行士の任務は、実験をはじめISSの利用・運用、保守、ロボットアームの操作などさまざまだ。実験では医学実験や超小型衛星の放出、船外実験などに携わる予定だ。

今回日本が初めて取り組む実験の一つが「小動物飼育実験」だ。雄のマウスをきぼう内のケージで約40日間飼育し、生きたまま地球に持ち帰る。大西宇宙飛行士は宇宙での飼育を担当する。重力の影響などを調べ、骨粗しょう症などの研究につなげる。